211 「ニャー」 何だ。猫かw
かくて母さんが車で駅南まで送ってくれることになった。母さんの車は父さんの愛車痛車トラクターとは違い、ごくごく普通の軽自動車だ。
まずはそれはOK。車での悪目立ちはない。そして、乗車する際に周囲を窺う。サダヨシの気配はないか。
「オキムネ。何をしている。早くあたしをお母上の車に乗せんか」
「そうそう。オキムネ。女の子をちゃんとエスコートしてあげなさい」
いえ、エリスに母さん。僕が車に先に入ってエリスを引き上げるのはよいのですが、そういうことをすると何故かサダヨシに目撃されて、あらぬことを言いふらされるという。
「ええい。別に本堂君に冷やかされることくらいいいでしょ。シャキッとしなさい。シャキッと」
いえ、母さん。サダヨシの冷やかしというのがですね。常軌を逸していて……
「オキムネ」
おわっ、何だ? エリス。
「あたしをエスコートしたくないのか?」
何だ、その上目遣い。いつそんなのを覚えた? くっ……
すみません。負けました。僕はエリスを母さんの軽自動車の後部座席に招き入れました。
ガサッ
むっ、何だ? 今の草むらから聞こえた物音は?
「ニャー」
何だ。猫か。
◇◇◇
「オキムネ。何を伏せっているのだ? あたしに膝枕してほしいのか?」
いや、エリス。僕は警戒しておるのだ。サダヨシに目撃されないように。
「サダヨシが何だというのだ。そんなことよりだな」
うーむ。その神経の太さが羨ましいぜ。
「オキムネはもっと図太くていいんだよ。あのお父さんの息子さんだから。『痛車トラクター』だの『美少女銭形平次』だの、私だって恥ずかしくてできないわ」
母さん、その発言は励ましなんですか?
◇◇◇
ほどなく母さんの軽自動車はショッピングモールの屋上駐車場に到着。シネマコンプレックスの入口に近いところに駐車。母さん、気を遣ってくれているね。
「分かった? こういう細やかな気遣いが恋愛勝者への道なのよ。覚えときなさい。オキムネ」
はあ。
◇◇◇
ともかくも母さんにそこまで言われた以上、やはり頑張らないとかな。僕は先に車を降りて、車のドアを開け、エリスをエスコート。
エリスはふんぞり返って一言「大儀である」。
何だかいつものペースに戻ってきたね。あんまり緊張しないで、いつもの調子でやればいいのかな。
ゴト
む? 何かまた物音が。
「ニャー」
何だ猫かって、結構ここのショッピングモール大きいよ。三階建ての上の屋上駐車場だし、こんなところまで猫が入り込んでいるのは危なくない? 車の通り多いよ。この駐車場。
◇◇◇
僕は小さいころからこのショッピングモール連れてこられていたから慣れているけど、エリスは初めてだからなあ。まあここは手を引いてあげましょう。
ゴト
む?
「ニャー」
何だ猫かって、本当に猫か? まさか、ねこや先生? いや違うな。ねこや先生なら堂々とR-2号と一緒のところを堂々と見せつけるはずだ。ねこや先生ではない。
「オキムネ」
何だ? エリス。
「あっちの方からいい匂いがするぞ。何だかお腹が減ったのだ」
あ、クレープ屋さんね。チョコクレープの匂いだわ。そういえば朝方慌ただしくて、朝ごはん食べていないな。
「オキムネ。大儀である。その『ちょこくれーぷ』とやらの献上を特別の慈悲を持って許す。更に特上の慈悲をもって、二枚献上することを許す」
どこまで偉そうなんだよとも言いたくなるけど、殊に改まってデートとか言われると、その普段からの横柄さに逆に安心感を覚えるから不思議だよね。
でもちょっと待ってよ。見る予定の映画の上映時間が近いみたいだよ。ここでクレープを食べていると上映時間に遅れるかも。
「でもあたしは、皇帝は空腹でおられるのだ」
大丈夫。映画はものを食べながら見られるから。クレープはあるかどうか分からないけど、ポップコーンは絶対あるから、それのチョコがけとかいいんじゃないか。
「リア充め」
む? 何だ今の言葉? エリスじゃないぞ。
「ニャー」
何だ猫って、ええ?




