第一章ー「五月雨」ー(6)
君の門限は高校を卒業するとともに8時から10時に変わっていた。それでも
「大学生に門限なんておかしいわ!」
と愚痴を聞かされていた。外も暗くなってきた。もうあまり一緒にいられない。
僕らは時間の許す限り今までの話をした。この日の君はよく喋り、そして目を潤ませた。
「春やから…。泣き虫いややわぁ。」
と言う君の目からはそれまでの寂しさが痛いほど伝わってきた。今思えばここのところ何かと追われていた僕にとっては逆に寂しいと考える暇もなくてその点楽だったのかもしれない。
いつだったか君は大学に入ると時間にゆとりができたと言っていた。高校の頃は休みの日も部活。平日の放課後だって塾やらで忙しかったので、趣味なんかに時間は割けなかった君。今は軽音楽サークルに入り、なおかつ高校の友達と別でバンドを組んでいる。時間に余裕ができた分、余計会いたくなってしまうのだとも言った。
「何かしてる時はさ、寂しいのも忘れてることが多いねん。だからわざと予定もぴっちり入れるし、バイトもいっぱいしてる。けどな、ふって思い出した時どうしようもなくなっちゃうことが結構あってさぁ…。今日は…押しかけちゃってごめん…。」
「俺は嬉しかったよ。びっくりしたけど。」
「…よかった。」
笑いあえる二人。本当にこの時間がずっと続けばいいと思った。しかし時間は7時半。君が帰る時間となった。
外はもう夜だ。駅まで自転車で二人乗りをしていった。いい大人が二人乗りなんてと思ったが、君のたっての希望だった。歩いて行くつもりだったので、電車の時間までもう少しある。そこで、いつもは曲がったことのない細い路地へ折れ、少し寄り道をした。
「あれ、どこいくん?」
と君は見慣れない道をきょろきょろ見回す。住宅街の中のくねくねとした路地。どんどんと元の道から遠ざかる。そして間もなく独特の香りが漂ってきた。
「え、こんなとこに…?」
目の前に広がったのはこじんまりとした浜辺だ。波の音は静かで、磯の香りがする。
君が驚くのも無理はない。駅から僕の家までの道のりは家や店が立ち並び、おおよそ海岸とは結びつかない風景だ。しかし地図上では僕の家は沿岸部に位置している。ここは近くの住人しか知らないプライベートビーチのようなものだ。
「すごいー!」
君はサンダルを脱ぎ、浜辺に足型を付ける。本当にこれが大学3回生なのかと疑うはしゃぎぶりだ。時間も時間だったので人気はなく、2人だけの浜辺のようだった。この状況ではカップルの2人というより、遊びまわる子どもと保護者の2人のような気もしなくもないが…
ともあれその日からここは君のお気に入りスポットとなった。
はしゃぎすぎた結果、駅に着くのはぎりぎりになってしまった。
「ばいばい!またメールする!」
と短く別れを告げた君は、また僕らの出会った小さな町へと帰っていった。
帰り道、一人でこぐ自転車はすごく軽くなっていて、華奢な君が大きな存在だったことを痛感した。背中に寄りかかるものがない寂しさが胸にしみてきた。




