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第一章ー「五月雨」ー(4)

「はい出来上がり~。ちょっと季節はずれやけどな。」

 自慢げになべを持ってくる君は窓からの光を浴びて一層まぶしく見えた。愛らしい笑顔が僕の顔も変えてくれた。

 彼女はテーブルに料理を並べた。見た目はとてもいい。女性らしくサラダもつけるあたりがいつもの僕の食卓と大きく違うところだ。しかし…正直彼女は料理が得意なほうではない。というより目分量ですべて作るので完成度にムラがある。シチューを選んでくるあたり自分の力量をわかっているようだが、今日のはどうなのだろうかと少し不安だ。

「いただきます。」

 初挑戦だというクラムチャウダーを一口。

「あ、おいしい。」

 素直な感想だった。だめ出しされると思っていたのだろうか、意表を付かれたように少し驚く君。照れ隠しが異様に下手だからすぐわかる。

「しかも貝、入ってない?」

 スプーンでかき混ぜながら尋ねると「あたりまえやん。」という風ににやりと笑った。


 最近僕は自分で料理をめったにしなくなったのでいつになく豪華な昼ごはんだ。後片付けは二人でした。君は自分でやると言っていたがさすがにそこまですべてやってもらうのは気が引けた。僕が皿を拭いていると、

「あたしら結婚したらこんな感じなんかなぁ。」

 と君がいきなり口を開いた。少し間があってから僕は

「そうなんかなぁ。」

 と、どちらとも取れる返事をした。結婚と言う言葉にそれほどの驚きはない。昔、お互いに先が見えなくなった時、君は将来の夢を僕に語った。

「あたしの夢はな、ゆうくんのお嫁さんになることやねん。全然お金持ちじゃなくてもいいから、そこそこ暮らしていけるだけの仕事と収入があって…。子どもは…できたらほしくて。結婚して二人とも仕事が休みの日はのんびりしてご飯作って、そんな家庭が良いねん。ほんで…そこにはゆうくんがおってほしいねん。」

 普段本当の感情をあまり出さない君が語った夢。そもそも君はあまり自分見せてはくれない。君らしいといえば君らしい、控えめな、それでいて実は難しそうなそんな夢だ。友達の前では幼い頃から「将来の夢は一般企業就職。」なんてシュールに言ってきた君は「お嫁さん」なんて女の子らしい夢、誰にも言えなかったのだと打ち明けた。僕から見たら君はそんなこといってもおかしくないような素朴な女の子なのだが。


 「お嫁さんになるって、難しいな…。」

 片づけを終えた二人はベッドに腰掛けた。君がこの言葉を発したのはそれとほぼ同時だった。僕は家事なんかができるかという不安だろうと解釈したから、

「あんずやったらなれるって。」

 と笑って言った。

 すると、いきなり君は方にもたれ甘えだした。強がりな君が僕にこんなに甘えてくるのは結構珍しい。照れながらもしっかり甘えてくる君。「休みの日はのんびりして」というのはきっとこういうことを言いたいのだろう。

 やがて君の目がとろんとしてきた。早起きだったのと涙の後なのとが相乗効果になり睡魔になって襲ってきた。実は僕も少し眠たかった。このまま彼女のぬくもりを感じながらお昼寝というのも悪くない。僕はベッドに身体をもたげ、左腕で腕枕をする形になった。

「そんなんされたら寝てしまうやんかぁ。」

 といいながらも横に寝転ぶ君。

「寝ていいよ。」

 軽く君にキスをした。いっそう照れた君は縮こまりながらうなずいて目を閉じた。そのまま程なく二人は眠ってしまった。

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