第3話:辺境村(1)
太陽の位置からして、時間は正午過ぎ。
さっき助けた少年―リト曰く、歩いて村までだと夕方辺りだそうだ。
「色々と聞きたいこともありますが、ひとまずこれで村まで戻りましょう」
そう言ってリトは腰カバンから取り出したものを見せる。
赤く輝く小さな石だ。
幻がそれに興味を示す。
「綺麗な石ね、それ何かしら?」
「帰還石の子石です。これに魔力を込めて力を入れると……」
そう言ってリトは石を砕いた。
赤い欠片はより輝きを増し、粉が軌道を描いて回転する。
視界が光に包まれ、目を開けると景色は変わっていた。
「このとおり。ようこそ、辺境村へ」
転移した場所は村の入り口と思われる所だ。
丸太のアーチの隣には、赤く輝く半透明の岩が置かれている。
「これは…、さっきの帰還石か?」
「の、親石ですね。子石を砕くとこの親石へと転移できるんです」
転移装置自体は何度か見たが、砕くだけで転移できる石はみたことが無い。
「ささ、ひとまず僕の家に案内しますよ」
「感謝する。ところでリト、敬語は不要だ。楽な口調で構わないぞ」
「分かり…、じゃなかった。分かった。じゃあ着いてきて」
そう言ってリトは先頭を歩き、俺達もそれについて行った。入り口を通り、村の景色がより鮮明に映る。
石垣の土台に建つ木造の民家や畑は、中世チックな趣があり、中世時代の田舎の村そのものだ。
(不思議と落ち着くな)
そう思いながら辺りを見渡していると、向こうの道から誰かが走って来る。
「リトーー!!」
少年の名前を叫びながら、手を振って走って来たのは、リトと同じくらいの少女だ。
ぱっつんの蒼いボブヘアーに、緑色の垂れ目が特徴的で、小麦色に焼けた肌とワンピースは活発な印象を受ける。
「あの子、リト君のお友達?」
幻がそう尋ね、リトは頷いた。
「うん、ノーチェっていって、僕の幼馴染なんだ」
リトが手を振り返した頃、ノーチェがリトに抱きついた。リトはよろめきながらも受け止める。
「今日早かったね、もしかして魔物倒せたの?」
「いや…、今日も無理だったよ」
「本当に一人で大丈夫なの? やっぱり次はアタシもついていくよ」
「草原は危険だからダメ」
そう言ってリトはノーチェの額を小突く。
やり取りから、付き合いの深さが容易に想像できる。
「ところでリト、後ろの2人は?」
「魔物に襲われたのを2人が助けてくれたんだ」
軽く自己紹介でもしよう。
「俺は流離、旅人だ」
「私は幻、よろしくね」
「リトを助けてくれてありがと! ねぇねぇ、2人って何処から来たの?」
ノーチェがそう尋ねる。
さて、どう説明したものか。
「ノーチェ、まずは2人が休めるところに案内するのが先だよ」
「ねぇ、アタシもついて行って良い?」
そう言って目を輝かせている。
リトは軽く俺達の方を見た。
「俺は構わないが、幻はどうだ?」
「私も良いわよ、人は多い方が楽しいわ」
その様なやり取りをした後、しばらく歩く。
そして、小さな民家に着いた。
「ここがお前の家なのか?」
「師匠の家だよ、今は用事でしばらく帰ってこれないから僕一人だけど。さ、とりあえず入って」
そう言ってリトは扉を開ける。
部屋の真ん中には木造のテーブルに、椅子が4つ並んでいる。他にはタンスや炊事場があるくらい。
内装は質素だが、清掃の行き届いている良い部屋だ。
そして案内されるまま、俺と幻は椅子に腰掛ける。
「それにしても、なんで子供一人であんな草原に一人でいたの?」
茶を入れているリトに、幻がそう質問した。
「修行の一環で魔物と戦ってたんだ。でも結果は見ての通りで……」
「修行か、若いのに偉いな」
思わず言葉が出る。
年も14歳辺りだろう、その年で鍛錬とは良い心がけだ。
「そんなことないよ、今まであの魔物に勝てたことないし」
「でもあの魔物って、ここだと強い部類なんじゃないの?」
「あの魔物は草原だと弱い部類なんだよね、危険度は2だし」
危険度、おそらく魔物の強さを示す規準なんだろう。2というと大した強さではないことが想像できる。
「ねぇねぇ! それより2人はどこ出身なの? もしかして東方の出身!?」
ノーチェが足をバタつかせてそう聞く。
元気なのはいいことだ、幻はその様子をみて微笑んでいる。
「東方、というのは?」
「大陸東側のことだよ。そこの人たちは流離みたいな黒髪が多いから、てっきりそこから来たのかなって」
「いや、というより俺達はこの大陸の人間ではない。別の星から来た」
それを聞いた2人は、目を点にしている。
「別の……星…、?」
それから2人に、どうやって俺達がここに来たのかを話した。
「え〜とつまり、空の上から来たってこと?」
「な、なんか凄い!」
こうして話してみると、お互いの常識に大きな乖離を感じる。やはりここは異世界の様だ。
「まぁ、とにかくこの世界の人間ではないとだけ分かってくれたらいい」
「だから、この世界のことについて教えくれたら嬉しいわ」
幻がそういうと、リトとノーチェはしばらく考え込んだ。
「ねぇリト、何から話す?」
「とりあえず、この辺りの地形について話そうか」




