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第7話 歓楽街のスカウト

「おや~? バレてたみたいだな」


 俺達に気付かれた上に開けた場所に誘導されたというのに、男達は動じなかった。

 ガタイのいい長身の男と小柄な男。

 こいつらは見た覚えがある。

 昼間に最初に大通りを出た時に見かけた『アイス求人』の広告馬車の御者。

 モヒカンにレザー調の服に肩パッド。

 世紀末の人! 世紀末の人じゃないか!!

 そんな格好しているお前らのことを忘れるのは難しいよ。


「昼間の宣伝の馬車の人ですよね?」

「あの時から目を付けられていたか」


 宣伝していた内容から娼館またはそれに近い関係者なのは間違いないだろう。

 つまりは真っ当なお仕事をしている人達ではなさそう。

 むしろこんな『汚物は消毒だ~』と言いながら火炎放射器使うのが似合う格好をしておいて、普通の職に就いてたらビックリだよ。

 そこの採用担当の常識を疑うわ。


「なんか用か?」


 もしかしたら道に迷って心細くなっただけかもしれない。

 ちょっと周りを威圧するような個性的な格好をしているだけで、本当に困ってる可能性も微粒子レベルで存在しているかもしれない。

 外見だけで人を判断してはダメだもんな、うん。


「ヒャッハー! 『何か用か?』だってさ、アポロ兄!」

「男には用はねぇよ。なぁダイヤ」


 ダメだった。

 この『ヒャッハー』という笑い方で善人だったケースを、異世界社会に不勉強な俺はまだ知らない。

 

「こいつに何の用があるんだよ。アポロにダイヤなんて借金して馬車を買ってそうな名前しやがって」

「なんでそれを知ってる!?」


 当っているのかよ。

 残クレ馬車だったのか。


「ここは住宅街の西区だぞ。歓楽街の北区でもないし、歌舞伎町や新大久保の新宿区でもないぞ?」

「カブキ……? シンジュク……? 何のことだ?」

「そこに行けばスカウトに苦労しないと思うぞ」

「わけのわからないことを」


 ひどいなぁ。

 せっかく親切にお前らのようなゴロツキが輝く場所を教えてあげてるのに。


「私に何か御用ですか?」

「そぉそぉエルフの姉ちゃん、ちょーっといいお仕事があるんだけどさ、話だけでも聞いてみない?」


 暗闇にモヒカン男が舌を出しながらニタニタ笑ってるのってホラーだな。

 センシティブ判定されちゃう。


「いいお仕事?」

「そそ。個室で男の人と少し過ごすだけでめちゃくちゃ稼げるんだよ」

「ほ、ほぉ」


 なんで食いつく。


「寮あり、託児所あり、客が付かなかった時の保証あり、定期的に治療院で検査」


 どうしよう。

 けっこう好条件に聞こえてくる。


「姉ちゃんなら容姿もいいし、エルフってことで直ぐに大人気になるぜ?」


 まぁ、それはそうだな。

 言ってることは最低だが、同意せざるを得ない。


「だ、大人気になると……?」


 食い気味になるな。

 絶対に仕事の内容わかってないくせに。


「そりゃ――」

「それは?」

「馬車を現金で買える!」

「…………」

「近所の川が俺達のミシガリル湖だったが、本当に旅で遊びに行ける!」

「…………」


 ミシガリル湖はこの街の少し離れた南に位置している大きい湖。

 湖岸はちょっとしたリゾート地みたいな場所になっている。

 冒険者や商人など仕事以外だと、金銭的に比較的に余裕がある住人がいくところだね。


「検討に検討を重ねた結果、今回はお誘いを見送らせて頂きます。ご期待に沿えず申し訳ございません」

「スカウトされた側が不採用通知を出した感じになってる」

「……じゃあ仕方ないな」


 男達の顔つきが変わる。

 隠していたけれど――というか外見からまったく隠れてなかったけれど、暴力性が前面に出るように切り替えたようだ。

 こうして他人にいう事を聞かせてきたんだろうなぁ。


 背中に持っていた武器をそれぞれ手に出す。

 ガタイの良いアポロと呼ばれた兄の方は片手斧、ダイヤという小柄な弟の方は棘のある棍棒――というか釘バットですねこれは。


 他の街までは詳しく知らないが、この街は治安がいい方だと思う。

 この街の代官である()の手腕がいいのだろう。

 とはいえ日本と比べたら安全とは言えない。

 こういう輩は必ずいるし、法よりも力が優勢な場面は少なくない。


「衛兵に突き出さないといけなくなるだろが。詰所まで連れてくのが面倒くさい」


 ファナを庇うように前に立つ。


「兄ちゃん無理するなよ?」

「エルフの子を渡せばケガしないで済むぜ?」


 こいつらは俺を見くびっている。

 見た目だけで判断されれば、それは無理もない。

 第三者が端から見ていれば、俺がボコボコにされる心配をするだろう。

 いや、目の前の男たちを見て通り、武器を普通に持っているし、下手をすると命を落とすことも十分あり得る。

 命の値段が安いのだ。

 でも、俺は恐れはしない。

 

「すぅーーーーっ」


 ゆっくりと息を吸う。

 肺ではなく、へその下である丹田に空気をゆっくりと溜めていくイメージ。


 この世界の誰しもが体内に備えている魔素。

 それの利用法は大きく三つある。


 一つ目は魔石またはそれを利用した魔道具の使用。

 魔道具は人間の生活に深く浸透しているため、これは誰でも意識せずに使うことができる。

 実際は刻まれている術式によって必要な魔素量やある程度の魔力の操作技術は必要とはするが、生活用品はそこまで意識しなくていい。


 二つ目は――


「はぁっ!」


 俺は体内に血流のように穏やかに潜む魔素に意識を移す。

 魔石に魔素を流し込むのと要領は同じで、体内を巡るようにイメージする。

 違うのは対象が石か、自分の身体か、だけ。

 自らの魔素が魔力となって全身の表面を薄っすらと包んでいく。


 ――魔力に昇華させての身体強化である。


「こ、こいつ魔力使いか?」


 薄っすらとした淡い光に包まれた俺を見て、片手斧のアポロが驚いた。

 もっと驚いていいぞ。


 身体強化の使い手は限られる。

 会得にはそこそこの訓練、努力が必要なのだ。

 そして、身体強化を使える者はだいたい冒険者か兵士となっている。


 すなわち、街でのゴロツキは身体強化が使えず『弱い』のだ。

 俺がこいつらを恐れていない理由である。


「へぇ」


 驚くごろつき達とは対照的に、背後からはファナの感心したような声が聞こえた。

 形としては庇っている構図のはずなんだが、後方腕組み彼氏――いや彼女か――みたいなポーズしてそう。


「アポロ兄、びびることはねぇ! こいつは冒険者のナリでもねぇだろ」

「待てダイヤ!!」


 兄の静止にも関わらず、ダイヤが釘バットを振り被りながら突進してきた。

 身体強化中は目が良くなるのか、思考が加速するのかはよくわからないが、多少は目に入る動きがゆっくりに見える。

 釘バットを俺の頭を目掛けてフルスイングするつもりのようだ。

 酷いやつだな。

 あんなので顔を殴られたら、骨が折れるだけではなくて皮膚がズタズタになるだろ。


「オラァ!」


 向かって左上から釘バットが襲いかかってくる。

 ただの棍棒なら受け止めても良かったが、無数の釘が邪魔だ。

 強化中でも負傷してしまう。

 なので上半身を反らして避ける。


「オッ?」


 空振りして身体が流れるダイヤ。

 俺は左手で相手の右腕を間髪入れずに内側に流すように押す。

 ダイヤはその勢いで右を向いてしまい、右脇腹を無防備に晒すことになった。

 そこに右拳を勢いよく打ち込む。


「ザンクレっ!?」


 奇怪な声を漏らしながら、ダイヤは身体をくの字に折り曲げた。

 肋にヒビくらい入ってしまったかもしれない。

 そのまま口から泡を噴きながら前のめりに倒れて地面に突っ伏した。

 わぁ、カニさんみたい。


「…………」


 顔から地面についたので痛いんじゃないかと思ったが、既に気を失っているな。

 俺は念のためにダイヤの手から離れた棍棒という名称の釘バットを遠くに蹴り飛ばす。

 こんなの『!?』が似合う暴走族しか持っちゃいけません。


「て、てめぇよくも弟を」

「待てというアンタの忠告を聞かないからだよな――よっ!」


 気を失っているダイヤの首元を掴み、アポロの足元まで放り投げる。

 身体強化中とはいえ、大人の男を数メートル投げるのはまぁまぁキツイ。

 熟練の冒険者でもマンガで見る『気』とか『念』を使うような人達の動きまではできないらしい。

 ロマンがない。

 練度次第でできるのかもしれないけど。


「さ、弟を連れて帰れ。二度と俺達に絡んでくるなよ」


 敵意を失って諦めてくれるんならそれでいい。

 甘いかな。

 あとで仕返しに来る可能性はあるだろうか。


「弟をやられて黙っている兄はいないんだよ!」


 美しい兄弟愛ではあるんだが、こんな半グレみたいなことしないで、真面目に努力すればいいのに。

 暴力を利用する職ならば、それこそ身体強化を身に付けるとか、努力することがあるだろう。

 いや、実際にこんな奴らが身体強化を使ってきたら迷惑この上ないけどさ。


「お前をぶっ殺した後にエルフは貰ってくぜ!!」


 片手斧を構えるアポロだが、弟と違って短絡的に突っ込んではこなかった。

 多少は賢いようだ。

 攻め方に迷っていると見える。

 今まで身体強化を使う人を相手にしてこなかったんだろうな。


「お兄さん達は私を狙っているってことですよね」

「……おい?」


 少しの膠着。

 後方に控えていたファナがポジション交代とばかりに俺の前に出る。

 いわば後衛が前に出ちゃダメだろう。


「お、気が変わったか? 今なら嬢ちゃんに免じて許して――」

「じゃあ、これに懲りたらもう来ないでくださいね?」


 魔素の利用法の残る三つ目は、魔力に昇華した上での魔法の行使である。

 身体強化より更に難度が高く、これを会得しているものは少数とされている。


「あ、え……?」


 ファナの周りに魔力が渦巻くのを見て、アポロに困惑の表情が浮かぶ。

 無理もない。

 だって俺にも困惑の表情が浮かんでることだろうから。


「ちょ、ちょっと待て――」


 今度はゴロツキ達と反対に俺が仲間を止める立場となった。


「<お日様のクシャミ!!>」


 ファナの突き出した両手から、空き地をくまなく照らすほどの純白の光が広がった。

 うおっまぶしっ。

 極太のビームを連想させる光熱波がゴロツキ達に近い地面に炸裂する。

 直後、轟音を上げて爆風を発生させた。


「ちょっ……」


 身体強化を維持したまま両手を顔の前に交差させて、爆風を凌ぐ。

 なにがくしゃみだよ。

 恒星のプロミネンスそのものだよ。

 こんな攻撃対象を塵と化しそうなものに『くしゃみ』と名付けるな


 しばらくして巻き上げられた粉塵が薄くなって視界が開けてくる。

 視認すると地面が大きく抉られている。

 まさに爆心地と形容するしかない。

 ドラゴンボールで見るやつ。


 魔法の使い手が少数なのは習得難易度が高いからだけではない。

 苦労して習得したとしても、大した威力ではないからなのだ。

 せいぜい壁を壊すといったレベルが限界らしい。


 努力と得られる成果が見合っていない。

 創作でよくある山を丸ごと吹っ飛ばすといったような威力は、おとぎ話もいいところなのである。

 それが俺の魔法に対する認識だったのだが……


「こんな威力って出せるんだ」


 その先に折り重なるようにゴロツキ二人は倒れていた。

 ヤムチャのポーズではなかった。


「い、生きてるよな?」

「手加減していますからね。大丈夫じゃないですか」


 手加減……?

 こんなクレーターができるような爆発で?

 二人はよく見るとボロ雑巾のようになっているが、少なくとも原形は留めている。

 あ、なんかピクピク動いてる。


「生きてはいるようだな」

「ちゃんと薄ーくしました」


 薄く?

 光熱波の収束率を下げて拡散させてたって意味か?

 表現がふわふわしててわからん。


「ファナ……」

「なんですか?」

「街中で攻撃魔法を使うのは禁止な」

「ええっ!?」

「なんで意外そうな顔してんだ!? 当たり前だろが!」


 街中をクレーターだらけにするつもりか。

 この破壊神め。


「おい! あっちだ!! 衛兵は呼んだか!?」


 爆発音を聞いたからか、夜なのに人が集まってくる音が聞こえてくる。

 衛兵も直に来るだろう。

 これは正当防衛として認識してくれるのだろうか。

 たぶん、してくれないよな。


「逃げるぞ」

「あ、はい!」


 俺達は人がまだ来ていない道を選び、この場からそそくさと撤退した。

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