表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/12

第5話 シガルの街

 午後過ぎまで休ませただけだが、ファナの疲れは大分抜けたようだ。

 朝食に続いて遅めの昼飯も綺麗に平らげた。


「ヒカルさん、そのソーセージ残すのならください」

「残さないが――返事を聞く前にフォークを突き刺すな」

「ありがとうございます……もぐもぐ」


 洗濯させた服も乾いたし、名残惜しいが彼シャツ姿はもう終わりである。

 予定通りファナを冒険者ギルドに案内してやるとしよう。

 家から出て空を確認すると、雲も少なく青空が広がっている。


「この街の名前ってなんていうんですか?」


 歩き出してすぐにファナが聞いてきた。


「正式名称はシガル市。シガルの街でも通じる」

「シガルの街ですね」

「お前の里から一番近い街みたいなのに、名前も知らなかったのか」

「あくまで最寄りという意味ですからね。歩いて十日くらいかかりましたし」


 この街から落命の森まで徒歩で丸一日。

 残りの行程を森の中での歩きと仮定する。

 ただでさえ悪路だから街道や草原ほどの速度は出せないし、随時、魔物もやり過ごす必要もある。

 車や電車があるのならともかく、徒歩や馬車だと想像以上に遠い。


「なるほど、そう言われると確かに近くはないな」

「でしょう」


 なんで胸張って『えっへん』って顔しているの?


「それに里の人達は引きこもりだから、外の事に興味ないんですよ」

「引きこもりって……」


 酷い言い草だな。


「だってみんな『私達は森で、人間は街で暮らそう。共に関わらない』とか言ってましたし」

「オオカモシカと旅してそうな人が言いそうなセリフ」


 エルフって人間とあまり交流を持たない種族のようだな。

 人里離れた場所でひっそりと大人しく暮らしている印象を持つ。

 もしその印象通りなら、失礼だけどファナは里の中で浮いてそうだ。

 なんというか、静かな職場に放り込まれた頑張り屋さんな新入社員のような印象なので。


「わぁ。人がすっごく……いっぱいですね」


 俺達は街の中央を東西に貫く大通りに出た。

 街の流通を支える大動脈であるので、人に荷馬車と往来が激しい。

 この道を中央に向かうと冒険者ギルドがある。


「あそこに見えるのが西門で、落命の森側だな」

「荷馬車が多いみたいですが、どこへ?」


 後を振り向きながら歩くファナ。

 危ないから前をちゃんと見なさい。


「その()だよ」

「え……『落命』なんて名前付けてるのに、向かう人は多いんですね」

「そりゃあ資源の宝庫だからな。多少リスクがあっても行かざる得ないだろ」


 アメリカのゴールドラッシュ、ヨーロッパの鉱山、北海の漁場。

 ハイリスク・ハイリターンな資源採取なんて、地球の歴史にだっていくらでもある。

 実際に落命の森から採れる資源はこの街どころかこの領、もしかしたら国の経済をも支えているかもしれない。

 魔石に始まり、鉱石、薬草、魔物の素材と、貴重な物が沢山手に入る。


「実際に森の中まで入るのは冒険者だけで、荷運びの人たちは外縁の野営地までみたいだけどな」

「野営地……」


 ファナの足がほんの一瞬だけ止まる。


「どうした?」

「う、ううん。何でもないです。あ、あの荷馬車は?」


 前方から来る荷馬車をファナは指差す。

 強引に話題を変えたような気もするが、深くは追及しない。

 触れて欲しくないことかもしれないし。


 荷馬車には大きな板が一枚立てられている。

 板には絵や文字が書いているようだ。

 他の荷物は無さそう。


「あれは……宣伝用の馬車かな。街中の大通りをぐるぐる回ってるんだ」

「へー、何の宣伝ですかね」


 女の人の声で歌も聞こえてくる。

 荷台で歌っているようだ。

 魔道具で声を拡張しているな。


「アーイス、アイス、アーイス求人!

 アーイス、アイス、高収入!

 アーイス、アイス、アーイス求人!

 アーイス、アイスで働こう!!」


 騒がしい荷馬車が目の前に近づいて来た


「ヒカルさん、高収入のお仕事ですって。冒険者よりいいかなぁ」

「やめなさい」

「氷菓子のお店ですかね」

「や め な さ い」

「ふぇぇ……顔が怖いです」


 荷馬車の前方の御者台で手綱を操る男達二人にじろじろと睨まれる。

 モヒカンで革の肩パットという個性的な外見をしておられる。

 世紀末にバイク乗ってそう。

 絶対カタギじゃないだろ、あれ。


 一方、歌を担当してる女の人は綺麗だった。

 服の面積が少ない。

 手をひらひらと振ってきた。


「とても綺麗でしたけど……は、肌の露出が多い格好でしたね」


 荷台の歌担当の女の姿を見たファナは顔を赤くしていた。

 女の人に手を振り返してる。

 ディ〇ニーのパレードじゃないんだからさ。


「ほら、見えてきたぞ」


 きょろきょろと回りを見回しながら歩くファナを監督しつつ、しばらく歩くと冒険者ギルドの建物が見えてきた。


「着いた……ぞ?」

「わぁ、大混雑」


 ギルドの建物にはひっきりなしに人が出入りしている。

 慌ただしい雰囲気が伝わってくるので、何かあったのかもしれない。


「いつもはこんなに混んでいない」

「よく知ってますね」

「そこの店あるだろ?」


 俺はギルドの隣の酒場を指差す。

 店名は『ふたつの瞳』。


「あれ、俺が働いてる店」

「ほー」

「さてどうするか」


 混雑が収まるまで、どれくらい時間がかかるかわからない。

 待つにしてもこの忙しない雰囲気の中に無理入って、気の荒い冒険者などとトラブルになるのも避けたい。


「お、ヒカルじゃないか」


 どうしたものかと考えていると、酒場からナスビル店長が出てきた。

 店の準備中だろう、折り畳み式の自立する看板――A型看板というらしい――を持っている。

 看板には本日のおすすめメニューが書かれてある。


『店長がはねる油に負けずに裸で揚げる唐揚げ』


 素直に服を着ればいいのでは?


「ちっす」

「休みをやめて出勤してくれるのか?」

「いやいや……」

「ヒカルさん、この方は?」


 ファナが俺の背中から控えめに聞いてくる。


「店長のナスビルさん。奥さんの事を空気さんと呼ぶくらい夫婦仲が冷めきっている」

「初手の紹介でその情報いる?」


 何言ってるんだ。

 最重要だろが。


「空気さん、ですね」

「なんで名前としてそっちを拾うの?」

「そうだぞ失礼だ。エア・ドールさんに謝れ」

「うぉい!」


 俺は店長のツッコミを華麗によけた。


「その娘はもしかしてエルフか?」


 店長がファナの耳に気付いた。

 顔を見ればまず左右に伸びた耳は嫌でも目に入るしね。


「エルフのリビングデッドです」

「もうその件はいいじゃないですかぁ」


 ファナに抗議された。


「ファナです。ハーフですけれど」


 ぺこり、とファナは店長に頭を下げた。

 俺は店長に昨日の経緯を簡単に説明した。


「――それで、ファナの冒険者登録をしようと思ったんですけど、この混雑は何です?」

「どうやら昨日から森の野営地で低級魔物が大量に集まっているらしくてな」

「ああ、それで冒険者がいっぱい集まってるんですね」


 たまにこういう事は起きる。

 放置すると街や周辺の集落に被害が及ぶ可能性があるので、行政からギルドに掃討依頼が入ったんだろう。

 これがもっと大規模だと街の駐屯軍の仕事になるらしい。


「行ったことないんですけど、野営地って魔物避けの結界が張られてませんでしたっけ?」

「…………」


 結界の魔法術式が刻まれた大型の魔石が野営地にはいくつか設置してあるはず。

 落命の森周辺は魔素が濃いので、一度起動したら周囲の魔素をエネルギーに稼働し続ける、という仕組み。

 人が体内の魔素から供給し続けなくてもいい。


「客の馴染みの冒険者達から聞いただけなんだが、謎の爆発でいくつか魔石がダメになったらしい」

「…………」

「へー、人間の魔法じゃあの結界は貫通しないだろうから、魔物の仕業ですかね」

「…………」

「お前が森から出てきた時は大丈夫だったのか?」


 さっきから黙ってて大人しいファナに話を振ると、ぴくんと肩を震わせた。


「わ、私の時は大丈夫……でした」

「おお良かったな。ファナが通った後にヤバイ魔物でも出たんかな」

「も、もしかしたらドラゴンがブレスでも吐いたのかもしれませんね」

「ははは。そしたらこの街も危ないじゃないか」


 落命の森の奥地に棲息するドラゴンは軍隊でも手に負えないらしい。

 そんなのがもし外縁まで出てきているのならば、街から避難を検討する非常事態である。


「ドラゴンの形跡まではなかったから、こうしてギルドに依頼が出されているんだろ」

「まぁ、そうですね」


 店長の言う事ももっともだ。


「さて、開店準備を続けるかな」

「おつかれさまです」

「失礼します」


 店長は俺達の挨拶に背中を向けたまま手をあげて応えると、店の中に戻っていった。


 もう夕方も近くなる頃。

 通常ならばギルドも日が落ちる時間帯までだ。

 この感じなら多少は長く開いているだろうが、新規冒険者の手続きまではしてくれないかも。


「今日は諦めて、街でもぶらつくか。案内してやる」

「わ! 賛成でーす!」


 何故か気まずそうな顔をしてたファナの顔が一気に明るくなった。

明日からは区切りの良い所まで毎日1話アップします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ