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第25話 月晶石

 空中でファナの雷撃をやり過ごし、着地する。

 味方を巻き込む範囲攻撃は止めて欲しい。


「ふぅ、死ぬところじゃったわ」

「なんで坊主頭がアフロになってるの? どこから生えてきたの、ねぇ?」

「これで止めだ! 行きますよ! 万象滅殺裂空――」

「……………」


 カゼルドの相手を放棄して、気合の入った声が聞こえてきた方を向く。

 金級冒険者ならではの出力を誇る魔力纏衣のみなのか、はたまた魔法を併用したのかはわからない。

 晴天の雷を喰らい瀕死となったコカトリスの遥か頭上、かなりの高度にその主はいた。

 跳躍の最大到達点、自由落下が始まるほんの一瞬。

 空中で静止した瞬間に決めポーズらしきものを取ろうとしたっぽい。

 すぐに落下が始まったので手足をわちゃわちゃさせてるようにしか見えなかった。


「――神威一刀斬!!」


 この世界には何かの技が発動することを指す意味の『スキル』は無い。

 そして魔法の起動句ですらないので、さっきから中二病冒険者が叫んでいる言葉には何の意味もありません。

 何の意味も無いんです。


 ハコネキンは両手で剣を下に向けて持った態勢にて、全体重を乗せて落下の勢いのままコカトリスの首に突き刺した。

 あっという間に柄の近くまで剣が埋まる。

 某ハイラルの勇者のジャンプ下突きみたいだな。


「コ、コケッ……」

「うおぉぉぉぉ! 派生(セカンド)の二剣(シークレットソード)――極限回転断罪剣!!」


 いいですか。

 技名に意味は(略。


 ハコネキンは止まらない。

 突き刺した剣を力任せに横へ薙ぎ払う。

 身体ごと回転した一閃が首を断ち切った。

 コカトリスの首と胴体は切断され、巨体がゆっくりと倒れ込む。

 その側にハコネキンが華麗に着地すると、空に向けて剣を掲げて宣言した。


「僕達の――勝利だ!!」


 俺達は勝鬨を上げる気にもならず、その姿を見守った。


「…………」


 ファナの雷撃で微妙に焦げたコカトリスからいい匂いが漂ってくる。

 そういえば唐揚げとか最近食べてないな。


「むぅ……見事なフィニッシュだったわい。さすが夫婦仲もフィニッシュしそうなだけはあるわな」

「なんてこと言うんだお前」

「カゼルドさんだめですよ。ハコネキンさんが泣いてます」


 決めポーズのまま静かにハコネキンは涙を流していた。


「ほれ、泣いてる場合じゃないぞい。大型魔物を倒した後は時間との勝負じゃぞ?」

「泣かした原因の奴が言う言葉じゃねぇな」

「血の臭いを嗅ぎつけて、別の魔物や動物が寄ってくるんじゃ」


 日本でも猟師さんが熊とか鹿を山の中で仕留めた後、その場で素早く獲物を処理するみたいだもんな。

 それはここでも同じか。


「血の臭いは想像よりも遠くまで飛ぶ。今頃ここらの屍食いどもが鼻を利かせとるわ」


 カゼルドによると嗅覚の鋭い生物から集まってくるらしい。

 死肉を漁るので嗅覚は鋭いのはどんなのだろう。

 ハイエナとかハゲタカとかのイメージが湧くな。

 虫とかもそうか。

 巨大なムカデとか出てきても色んな意味で嫌だな。


「嗅覚が鋭い生物ってどんなのが来るかわからないが、これ以上の余計な戦闘はごめんだな」

「使用済みの女の服の匂いを好む男とか来るかも知れんしな」

「それただの匂いフェチ」

「お前も良くくんかくんかしとるじゃろ?」

「風評被害が過ぎる」

「え~、汗かいてるから恥ずかしいです」

「嗅がねぇよ!?」


 泣き止んだハコネキンとカゼルドが中心となって、コカトリスの解体を進めていく。

 コカトリスの部位で価値が高いのは、鶏冠と嘴、そして翼。

 最初の二つはトドメの段階で首を落としているので既に身体から分離している。


「いくよ~」


 なので翼の部分を切り落としたら、ファナが弱めの火魔法を放射する。

 解体に邪魔な羽毛を除去するためだ。

 表面だけ炙っていく。

 羽が一瞬で燃え縮れていき、皮が露出していく。

 鶏皮の焼き鳥が食べたくなってきた。

 パリパリに焼いた鶏皮をピラミッドみたいに積み重ねた居酒屋のメニューを思い出す。

 こんど店で再現できるかやってみよう。


「こいつは内臓にも価値がある部分があるのか?」

「まずは魔石ですね。基本的に身体の大きさに応じて魔石も大きくなります」

「ああ、魔石か」


 魔石は大きい方が刻める術式の容量も増える。

 複雑な術式を埋め込みたいのならば、それだけ大きい魔石が必要となる。


「あとは胆嚢ですかね。解毒薬の原料になります。それと――」

「ほれ、取れたぞい」


 ハコネキンが言いかけた時、カゼルドがコカトリスの腹腔から丸い臓器を抱え上げる。

 直径で三十センチくらいはありそう。


「何それ?」

「砂嚢じゃよ」


 鶏やいくつかの鳥は石や砂を飲み込んで歯の代わりとして利用する。

 砂嚢はその飲み込んだ石や砂を溜め込み、食べ物を砕いて消化の助けとする器官だ。

 いわゆる砂肝。


「もしかしてな」

「ああ、なるほどですね」


 ハコネキンはカゼルドの狙いが分かっているようだ。

 解体用のナイフで砂嚢を開くといくつかの丸い石がゴロゴロと転がり落ちる。

 その中から何個かカゼルドが選別して拾いあげた。


「ほれ」

「有りましたね、月晶石!」

「わぁ」


 ハコネキンとファナが嬉しそうな声を上げた。

 おお、これらが月晶石なのか。

 その石は月明かりを閉じ込めたような、淡く黄色がかった半透明だった。

 そもそもこれが一番の目的だったんだ。

 トカゲと鶏との連戦で忘れていた。


「ここらにおったんなら、コカトリスが胃石代わりに月晶石を飲み込んでるかと思ってな」

「やたらと滑らかだな」

「砂嚢で磨かれとると綺麗になるからの」


 天然の研磨によって、つるりととても滑らかな表面をしている。

 これなら地中のを取り出すより良さそうだな。


「ハコネキン、お前さんがこの大きいのを持っていけ」

「いいんですか?」

「ファナの耳飾りを直すには大きすぎるんじゃよ――お前らもいいな?」


 カゼルドが横目でこちらを見てくる。

 ハコネキンに渡したサイズは確かに耳飾りには大きすぎる。

 アクセサリーに使うとしてもペンダントみたいにするしかなさそうだ。


「もちろんです」


 ファナがいいんなら、俺には異論を挟む余地なんてない。

 静かに頷く。


「……ありがとうございます。妻も喜んでくれるといいな」

「よかったですね。ハコネキンさん」


 ファナだって自分の耳飾りの修理の目途が立って嬉しいだろうに。

 自分のことより他の人の気遣いを自然にできるなんて大したものだよ。

 ハコネキンに優しく笑いかけるファナを眺めながらそう思った。


「なんですか?」


 やべ。

 見てるのバレた。


「何でもない」

「?」

「さて、残りの解体と撤収準備を続けるぞい」


 カゼルドが作業を促してくれたので上手く誤魔化すことができた。

 ナイスタイミング。


 その後、コカトリスの解体を終え、ラプターの死体と共にまとめておいた。

 わざわざ灰になるまで焼いたり、埋めたりはしない。

 魔法を使ってもこのサイズと量だとかなりの労力になるからだ。

 あとはこうしておけば他の動物や魔物が処理してくれるだろう。

 食物連鎖である。


 切り分けた素材は中々の数になった。

 全てを運搬することができないので、価値のあるものを優先して確保したのにだ。


「こんなに僕が頂いていいんですか?」


 素材の配分の取り決めでハコネキンが恐縮している。

 人数で割って4分の1だと思っていたところ、半分近く渡したからだ。

 俺達のパーティと、ハコネキンという分け方だな。

 ハコネキンは奥さんようの大きな月晶石をもらっただけでも恐縮しているようだ。

 実力者なのにほんとに腰が低い男だ。


「自分で言うのもなんだけど、俺は戦力に大してなってないしな。指示してもらって助かった」

「そうだそうだ! 反省しろ!」

「<光よ!>」


 俺はカゼルドに向かって小さめの光熱波を撃った。

 避けられた。

 ビームを避けるな。


「ヒカルさん。今のもそうですが魔法の実力、特に術式構築の速度と精度がずば抜けています。下手をするとその点においては僕よりも」

「え、そう?」


 一部分といえど、さすがに金級より上って褒め過ぎだろ。

 悪い気はしないけど。


「それに練度はまだまだですが纏衣も使えている。とても木級なんてレベルではないですよ」


 そう言って微笑むハコネキン。

 自分では実感ないけれど、そう評価してもらえることは嬉しいことだ。


「さて、まずは集落までは戻るぞい」

「そこまではご一緒します」

「シガルには行かないのか?」

「早く家族――子供達と妻の顔を見たくなりましてね。直接エルクハイムに向かいます」

「そうか」

「家に戻りましたら手紙を出しますね。妻との仲がどうなったかご報告します」

「それは楽しみだな」


 俺は家の住所をハコネキンに伝える。


「そうじゃ、ペペスライムをまた取らないとな」

「忘れてた……」


 そうだ。

 コカトリスに投げつけたんだった。

 終わったと思った後にタスクが出てくると疲れが噴き出るな。


『ヒカルくーん。僕の依頼を忘れるなんてひどいよ~』


 アンディの幻聴が聞こえた。

 さらにイラっとした。


「まぁあれならすぐ見つかるじゃろ」


 こうして、俺達のパーティーの初冒険は無事に幕を下ろすことができたのだった。

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