第24話 コカトリス
俺はハコネキンの指示に被せるように叫んだ。
「<風よ!>」
「――構築が早い!?」
ハコネキンが驚く。
突風が俺達の背後から起こり、コカトリスのブレスを押し返した。
さっきのファナの冷却魔法と違って風を起こすだけの単純なものなので、俺でも十分な風速と風力を稼げる。
コカトリスは一撃必殺のブレスを防がれたこと戸惑いを感じたのか、微動だにしなかった。
「ヒカル、でかしたぞぉ!」
「ファナさんはブレスの妨害を! ヒカルさんは牽制をお願いします!」
「はいっ!」
「わかった!」
前衛の二人組が素早く魔力を纏うと一気に駆け出した。
瞬時にトップスピードに乗っているので、実際の速度よりも速く感じる。
まるで目の前から瞬間移動したような印象を受けた。
俺も二人に倣って纏衣を発動しておく。
カゼルドが回り込みながら接近するのに対し、ハコネキンは術式の構築を行いながら最短距離を進む。
「悠久なる時の狭間に眠りし絶望よ。
幾千幾万の魂を喰らいてなお飢え足らぬ奈落の王よ。
我が呼び声に応え万象を灰燼へと帰せ。
<終焉を告げる深淵の獄炎!!>」
「長いっ! 同じ時間で四発撃てるだろ!」
魔法の発動に必要な起動句となる部分は「終焉を告げる深淵の獄炎」だけである。
それ以前の口上は何の意味もない。
いやまぁ、関係の無い言葉を読み上げながら術式の構築をしているのって高等技術ではあるんだけどね。
突き出したハコネキンの片手から黒い炎の弾が打ち出される。
また黒い色なのかよ。
サイズ的には人間の頭より一回り大きいくらいだが、速度は早い。
「コケ―ッ!」
コカトリスは炎を嫌ったようで、羽ばたきながら跳躍して炎弾を躱した。
代わりに足元で絶命していたラプターが炎に包まれる。
鶏は空を飛ぶことはできないが跳躍力は以外とある。
垂直に2メートル近く飛び上がることはあるし、水平にも10メートル程度なら羽ばたいて移動できる。
通常の鶏でもそれだけの能力があるのに、翼が猛禽類のように立派なコカトリスの高度は高かった。
中々の迫力。
「ぬんっ!」
カゼルドが追いかけるように跳ぶが、攻撃が足元に届くのがやっとの高さ。
「コケッ!」
足先を狙った攻撃は避けられ、もう片方の足でカゼルドを追い払う。
ラプターと同じような大きな鉤爪での攻撃。
喰らうと肉が引き裂かれての致命傷は必須だが、盾で防いでいるのは見えた。
「生意気な! 鶏の足料理にしてやるぞい!」
カゼルドを蹴落としたコカトリスは羽ばたきを止めずに空中に留まった。
先ほどど同じく嘴を大きく開く。
「ブレスだ!」
空中から一方的に即死範囲攻撃を仕掛けてくるなんてクソモンスターにも程があるだろ。
ゲームならバランス調整どうなってるの、とコントローラーを投げ捨てる所だよ。
しかし、今度はファナの準備も万端である。
「<北風さんのため息!>」
俺が発動させた突風魔法とは比較にならないほどの強風が発生した。
こんな何もかも吹き飛ばそうとする溜息があってたまるか。
コカトリス2回目の石化ブレスは今回も失敗に終わる。
「コケケケッ」
コカトリスからすればブレスを防ぐ気に喰わない向かい風。
その風に向かって羽を大きく広げると、滑空を開始した。
向かい風を受けると翼に揚力が発生し、飛行距離は伸びる。
ハコネキンとカゼルドを無視し、俺とファナの位置まで十分に届く距離なんだろう。
ブレスを防ぐ奴らを先に処理しようとでも考えたのだろうか。
鶏のくせに知能が高いようだ。
あっという間に俺達の頭上に到達するとワシが獲物を両足で掴むように急降下を開始する。
ファナは魔法の行使を終了した直後なので、次の発動が間に合わない。
「<大気よ!>」
俺達とコカトリスの間に圧縮した空気の壁を出現させ、そのまま押し出す。
――つもりだったが、急降下の勢いもついてるコカトリスは重い。
速度を落とすブレーキとするのが精一杯だ。
「んぐぐぐ!」
「ヒカルさんっ!」
ファナの呼びかけ視界の端から迫ってきているものに気付く。
尻尾のヘビが俺に噛みつこうと牙を向いていた。
「うわっ!」
噛まれるとこちらも致命傷になりそうな猛毒持ちである。
即死技が多すぎる。
とっさに魔法の発動を強制終了して槍を両手で横に持って突き出す。
ヘビは柄の部分に激しく噛みついて、離さない。
次の瞬間、体重が消えた感覚を覚える。
遊園地で逆バンジーのアトラクションを体験したことあるだろうか。
あれに似ていた。
気付くと俺はコカトリスよりも高い位置に浮いていた。
尻尾のヘビに槍ごと放り投げられたらしい。
高さ自体は纏衣状態なので問題ない。
これくらいならば大丈夫なことは練習で試したことがある。
ヤバイのは無防備な状態で至近距離にいるこの鶏だ。
突っつき、蹴り、ヘビの噛みつき、ブレス――どれが来てもマズい。
嘴を開いた。
ブレスだ。
この位置だとファナに風を起こしてもらっても浴びてしまう。
ヤバイ!
「うわあぁぁぁ!!」
無意味かもしれないが腕を身体を守る為に前に出そうとした。
何かが腕に当たる。
腰にくくり付けていたペペスライムが入っている木樽だ。
防御するのを止めて、半ばヤケクソで樽を嘴に目掛けて投げつける。
「コケ……ゴッ」
投げつけた木樽が嘴の中に入る。
コカトリスは戸惑ったのか、ブレスを反射的に中断させたようだ。
偶然だけど、ナイスコントロール!
今なら9つのパネルを狙ってボールを投げる的当てゲーム――ストラックアウトをクリアできそうな気がするよ。
「<砕けろ!!>」
衝撃波を発生さて樽を狙って撃つ。
樽は大きな音を立てて爆砕すると中からペペスライムが飛び散った。
いくつかはコカトリスの気管の中まで入っただろう。
ブレスをこれで阻害できればいいが。
「ギィイッ!!」
「んげっ!」
とっさの行動だったので受け身も取れずに地面に落ちる。
纏衣状態じゃなかったら大怪我していたところだ。
前衛必須のスキルというのが良く分かる。
コカトリスの追撃を警戒してすぐに態勢を整えると、あのでかい鶏は咳込みながら嘴を地面に擦り付けていた。
嘴を中心とした頭全体から半透明の粘液が糸を引き、首を激しく振る。
鶏部分とは別の脳を持っているのか、その状態でもヘビが俺を狙って身体を伸ばしてきた。
まじかよ。
「良い仕事したのぉ!」
ヘビが俺の身体まで届くことは無かった。
俺達のところまで戻ってきたカゼルドの振り下ろした戦斧槌が両断したからだ。
カ、カゼルドさんっ!
「ギイィィィっ!」
コカトリスは悲鳴を上げながら跳躍して距離を取ったが、上手く呼吸ができないのか大して離れなかった。
切断されたヘビの頭部分はのたうち回っていたが、すぐにカゼルドは足で遠くに蹴とばした。
「この状態でも毒はあるからの」
「はじめてアンタのことをカッコいいと思ったよ」
「街に帰ったら一杯奢るといいぞ。ガハハ」
「まだ終わってないだろう」
「終わりじゃよ」
カゼルドが顔を向けた先に俺も視線を向ける。
ファナがちょうど術式の構築を完了させ、まさに発動しようとしていたところだった。
その術式を読み取った俺は焦るしかなかった。
「ちょ、ちょっと待て!」
あ、だめだ間に合わない。
俺はできる限り跳躍した。
とりあえず空中に逃れれば。
「<雷様のげんこつ!!>」
空気を引き裂くような轟音とともに、青白い稲妻が柱のようになって天から叩き落とされた。
コカトリスは雷光に飲み込まれて、一瞬遅れて耳をつんざく轟音が起きる。
爆発するように泥と水が跳ね上がり、湿地一帯へ焦げた臭いが広がっていく。
「あばばばば!!」
俺は空中から地面を伝わって一緒に感電してるカゼルドを眺めていた。
ま、たぶん大丈夫だろ。
殺しても死ななそうな気がするし。




