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第23話 朝鳴きの正体

 豚や牛、鳥などが捌かれるのを見た事はない。

 寿司職人が大きいマグロを長い包丁で捌くのを見た事ことはある。

 恐竜みたいな奴が捌かれる工程は、今まさに目の前で起きている。

 もっとも食べるためではなく、体内に存在する魔石を抜き出しているのだが。


 魔石は魔素が何らかの理由で凝縮されて結晶化されたものなので、魔物の体内にある場合は生態濃縮された結果だろう。

 この魔石が生態濃縮される生物は全部魔物として区別されるとのこと。

 実際はもっと細かい区別があるらしいが、とりあえずはその認識でいいと以前カゼルドに教わっている。


「全部で十二匹いたから十二個取れたの」


 カゼルドが小石くらいの大きさの魔石を並べる。

 この魔石が生活用品――だけでもないけど――に欠かせない魔道具の核のパーツになる。

 このままでは使えないらしいけれど。


 他に並べられているのはラプターの後ろ脚の大きな爪。

 鎌みたいに湾曲しているが切れ味は良さそうだ。

 これに切り裂かれる可能性もあったんだよな。

 恐ろしい。

 この鉤爪はシックルクローと呼ばれる。

 魔物は種類ごとに価値のある部位があるので、それを切り分けているのだ。


「まぁまぁの臨時収入になりますね」


 魔物から得られたこれら魔石や素材はギルドが買い取ってくれる。

 依頼の報酬と並ぶ冒険者の収入源となる。


「お主ならもっと一発でデカい魔物を狩っとるじゃろう」

「今回は僕は完全プライベートで来ていますからね。予想外の収入は嬉しいですよ」

「それは俺も同意する」


 学生が財布の中身が寂しい時に、親戚からお小遣いを貰う。

 少額でも宝くじが当たった。

 不用品が買い取り業者に高値で売れた。

 いずれにしても予定外の収入は嬉しいものだ。

 高収入と思われるハコネキンもそれは同じらしく、親近感が湧くな。


「しかし、なんでこいつらここら辺にいたんじゃろなぁ」


 今は集めた素材をまとめて持つことになったカゼルドが、荷物にしまいながら疑問を口にする。


「さっきもそんなこと言ってたな」

「本当はこいつらもっと奥の森におるんじゃ。あ、ルーヴェル大森林の方じゃないぞ」


 普段、森というと危険地帯のルーヴェル大森林を指すが、今はミシガリル湖の湿地帯を抜けた先の森林地帯のことを指してるとのこと。

 ラプターは本来そこで縄張りを築いているらしい。


「魔物が縄張りを移す理由なんて、餌を求めてか、何らかの脅威から逃げるというのがほとんどですね」

「じゃあ、何かに追われてるって――」


 ドォンッ


 俺の言葉を遮るように、離れた所から木々や葦を揺らす轟音が響いた。

 何か重いものが地面へ叩きつけられたような衝撃。

 続いて、鳥とも獣ともつかない甲高い咆哮が森中へ響き渡る。


「なんでしょうか?」


 ファナがきょとんとする。

 音がした方向にある背の高い葦の茂みから、一匹のラプターが飛び出してきた。

 そして飛び出した勢いのまま着地に失敗して転がった。


「鈍いやつじゃのう。ヒカルも女心に鈍くなければいいんじゃが」

「今それ心配する必要ある?」

「ヒカルさん、鈍いんですか?」

「深刻そうな顔をするな」


 倒れたラプターは俺達の方に素早く立ち上がってそのまま駆けてくるかと思ったが、そのままだ。

 よく見るとビクンビクンと痙攣しているようだ。


「……なんか様子が変じゃないか?」


 倒れたラプターを覆いつくすように大きな影が落ちる。

 雲が太陽を隠したのかと思ったが、そうではかった。

 何か大きな物体が宙にいる。

 その姿を見てすぐに認識したのは、俺でも良く知っている鳥だった。

 ……サイズ以外は。


「鶏?」

「グギャァ!」


 クソでかい鶏が動かないラプタ―の上に着地する。

 地上に立つとその大きさが良く分かった。

 頭頂高で2メートル半といったところだろうか。

 鳥類は見た目より軽いという。

 それでもあのサイズで勢いよく乗られたら、ラプタ―は圧死したんではないだろうか。


「コケコッコォー!!」


 日本でも馴染みのある鳴き声。

 今朝にうるさかった犯人はコイツか!?


 大きな身体、立派なとさか、羽はやたらと立派でゴツい。

 そして尻尾は無く、代わりに長い蛇が生えている。

 あの蛇は生きてるのか?


「コカトリス!」


 ハコネキンが明らかにラプターの時より警戒した声を上げる。

 コカトリス――ゲームで見た事ある。


「こいつヤバイ……んだよな?」

「鋼級以上のパーティ推奨対象です!」


 ラプターが鉄級と言ってたから、あのトカゲ達より危険度が上ってことか。

 うん、木級の俺が立ち向かっていい相手じゃないな。


「こいつがいたからラプターが縄張りから逃げていたってことか」

「まぁそうじゃろうなぁ」

「逃げるか?」


 コカトリスは俺達の存在に気付いている。

 首を動かし足で押さえているラプターを突いているが、眼はこちらをじっと見ているのだ。

 動いてはこないので、この距離なら逃げれそうな気がする。

 しかし俺達が逃げたのに反応して追いかけて来られたら、すぐに追い付かれそうな気もする。


「コカトリスには厄介な攻撃があるので、背後からそれを喰らうのは避けたいです」

「どんな攻撃?」

「まず尻尾の蛇からの猛毒と――」


 状態異常持ちか。

 猛毒って噛まれたらアウトそうだな。


「――石化ブレスです」

「そそらないぜ、これは!」


 某石化世界のマンガのように硝酸とアルコールを混ぜた復活液を用意しておかないと!

 こんな所で石化しちゃったらゲームオーバーじゃないか。

 そもそもあの復活液で石化解除されるかどうかわからないけどさ。


「あの踏まれてるラプターって……」

「ブレスを受けたんでしょうね」

「石になってるようには見えないが」

「生物の体内に存在する魔素を反応させて硬直させるんです。まるで石になったように固くなります」


 なるほど。

 実際に物理的に石に変化させてるわけではないのね。


「まだ距離がある今が有利じゃのう」

「ええ。僕の魔法では一発で致命傷を負わせられません。ファナさん威力重視でお願いできますか?」

「任せてください」


 流れるように対応が決まっていく。

 力になれない悔しさはあるが、素直にこいつらが格好いいと思った。


 ファナが編集領域を展開し、術式を構築していく。

 術式を見てて思ったがファナのは別に特別な構成を組んでるわけではないんだよな。

 俺が組むのと大差ない。

 発動時に流し込む魔力が膨大過ぎてでたらめな威力になるだけ。

 まさに『今のはメラゾーマではない……メラだ……』と同じ構図なわけよ。


「……!」


 ファナの構築が完了し、魔力を練り始めたタイミングで、コカトリスがこちらに首を向ける。

 鳥類って首の動きがやたらと速い。一瞬だ。

 そして嘴を開く。


「この距離で石化ブレスじゃと!?」

「ファナさん、風魔法で散らせませんか!?」

「えっ、えっ!?」


 光熱波をまさに発動しようとしていたファナの構成が霧散する。

 予想外の仕様変更に戸惑うファナは術式の組み直しに戸惑っている。

 完成直前のプラモデルをバラして、別のプラモデルを即座に組み直せと言われたようなものだ。

 そんな直ぐ意識を切り替えられるわけがない。


 コカトリスの嘴から薄い色をした煙がこちらに吐き出される。

 タメ時間とか無しに出してくるのかよ。

 煙なのに指向性を持っているのか、あまり拡散せずに速い速度で一直線に伸びて向かってくる。

 あれを浴びると全滅だ。


「みんな散ってくださ――」


 強い焦りを帯びた声でハコネキンが指示を出した。

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