第19話 冒険者ハコネキン
声をかけてきた痩せ気味の男は、服装からして冒険者なのだろうな。
使い込まれた外套をはおり、片手剣を腰に下げている。
身に纏う物全てが新品とはほど遠い使い込まれた感が出てる。
雰囲気だけで経験の豊富さが伝わってくる。
こいつただ者ではないな、って感じるのはこういうのなんだろう。
「すみません。騒ぎ過ぎましたかね」
俺は謝った。
元々貸し切り状態だったとはいえ、後から他の客が来る可能性は失念していた。
行楽地ではしゃぐ奴らみたいに声を大きくし過ぎたかもしれない。
いくら楽しくても、周りに迷惑になるほど騒ぐのはよろしくない。
この人強そうだし、余計なもめ事は起こさないに限る。
「ははは、全然うるさくないですよ。それに他に誰もいないですしね」
なんかフレンドリー。
「良かったら僕もご一緒させてもらってもいいですか? キミらしかいなくて寂しくて」
この人コミュ力高いな。
それぞれ複数のグループが和気あいあいとしているのならともかく、この広めの野営地に俺達のグループだけが楽しそうにしている。
そして自分は少し離れた所にソロで静かに過ごす。
なるほど、そんな状況ならば寂しいと思わなくもないかも。
でも俺だったら寂しくてもソロを貫くな。
「わしゃ構わんぞ」
「私も大丈夫です」
ファナとカゼルドが俺を見る。
あ、俺が最終決定者なのね。
「どうぞ」
「ありがとう」
男は焚火を囲んでいる俺達の空いてるスペースに腰を落とした。
荷物を漁りいくつかの酒と食料を手渡してくる。
「おほっ」
カゼルドが酒を見て気持ち悪い声を出して喜んだ。
酒関係の時だけ反応速度がおかしい。
「僕はハコネキン。職業は魔法戦士。あなた達も冒険者ですよね?」
「ハコネキン? 金級の『放浪のハコネキン』か?」
カゼルドが反応する。
金級ってことは都市レベルの上級冒険者だよな。
最初の印象通りの実力者だった。
「金級なんて過大評価もいいとこだと思うんですが」
謙遜している。
実力が伴っていないのならば、少数しかいない上位等級に認められるわけもないだろう。
自慢してマウント取ってきても許される地位だろうに。
話し方も丁寧でいい人だ。
「ワシはカゼルド。銀級の重戦士じゃな」
こいつ銀級だったのかよ。
どう見ても昼から酒を飲んでる近所のおっさんなんだが。
カゼルドは俺の内心を読んだのか、こっちを見てニヤニヤしている。
腹立つ。
「カゼルドさん……聞いたことがあります。シガル市を中心に活動していますよね?」
「ああ、そうじゃな。ここ何十年かはエルクグローブ領におるわ」
「シガルの冒険者ギルドもたまに行きますが、そこで聞いたことのある名だよな、と思いました」
「え、カゼルドもまぁまぁ有名人なの? 『毎朝乗り合い馬車の待合室の前で酒飲みながら独り言をぶつぶつ言ってる人』とかの方向性ではなく、真っ当に?」
「お前、ワシのことなんだと思ってるんじゃ」
「一緒のパーティなのにカゼルドさんのことを知らないなんてあるんですね」
この前みたいにふらっと数週間留守にするし、冒険者としての経験があるのは知っていたけどさ。
一緒に依頼を受けて冒険に出たの初めてだし、普段家に居る時はわけのわからないガラクタ作って酒飲んでるだけだし。
そんなのが『実は凄腕でした』なんて思わないだろ。
「私はファナです。鋼級で魔法師? みたいです」
「なんで疑問形なんだ」
思わず突っ込む。
「ソシエさんにそう言えって言われてますし……」
「失礼ながら名前は初耳ですね。エルフの冒険者は少ないはずなのに」
少数だから聞いたことがあれば覚えているってことなんだろうな。
「最近登録したばかりじゃからな」
「なるほど、それじゃ無理もないですね。しかし登録したばかりで鋼級とはさすがエルフですね。そして――」
こっち見た。
順番が回ってきた。
「あなたは?」
そんな素直な目で見ないで。
あなたほどの実力者なら俺が大した経験ないのわかるでしょ。
格下を見下す嫌なキャラだった方が俺の心が楽だったよ。
「あの、俺はヒカル……等級は木級です……」
金、銀、鋼と来て木。
俺だけホームセンターでDIYの材料買うみたいな。
「木級?」
意外そうな声。
うう、恥ずかしい。
「ああ! 最近、王都で流行りの冒険者等級を実力より低く登録するアレですかね?」
「流行り?」
『冒険者最下級ランクの俺が実は最強で無双しちゃう件』みたいな感じのやつです」
「地獄みたいなムーブ」
「実際はずば抜けた実力があるわけではないので、討伐依頼を失敗されたり採集依頼で期限をオーバーしたり」
「でしょうね」
「そんな感じでギルドも困ってるようですよ」
「なんで楽しそうなの?」
表情と内容が合ってない。
「よくわかったなハコネキンよ。こいつの口癖は面倒臭そうなトーンの『やれやれ……』なんじゃ」
「やはり」
やはりじゃねーよ。
何その『全て察した』みたいな目を伏せた表情。
違うっつーの。
「いえ……正真正銘の木級です。依頼も二回目だし」
「ああ、そうなんですか……」
優しいが故に気を遣ったんだろうけど、言葉が続かなくなっているぞ、ハコネキン。
この空気をどうしてくれるんだ。
「ええと、職業は?」
「酒場の厨房で働いています」
「え、あの……?」
ハコネキンが困惑の顔を隠さない。
その表情を見て俺は的外れの回答をした事に気付く。
この場合は冒険者としての職業を聞いていたのね。
日々の職業の方を考えちゃうよ。
しかし、回答に困るな。
冒険者の職業には厳密な定義はない。
斥候だから鍵開けや探索ができるのではなく、鍵開けや探索が得意だから斥候を名乗る。
職業は本人の持つスキルを一言で表す肩書きみたいなものだ。
とはいえ『探索できます』、『罠解除できます』、『弓も使えます』、『料理もできます』なんて職務経歴書みたいに並べられても、書く方も読む方も面倒くさい。
だから『前衛』、『斥候』、『魔法師』といった大雑把な肩書きで、自分の得意分野を示しているわけだ。
パーティーで追加要員を募集する際、欲しい人材と違うスキルを持つ者にに声を掛けてもお互い時間の無駄になるだけだしな。
そうなると、俺の自分のスタイルに近いものって何だろう。
魔法を行使できるから魔法師でいいんだろうか。
ふとファナと目が合った。
「どうしたんですか?」
ニコッと笑ってきた。
でもなぁ、行使する威力が全然違うのにファナと同じ職業を名乗ってもいいのかな。
おこがましくて気が引けちゃうよ。
「お前さんは纏衣も魔法も使えるから、魔法戦士でいいんじゃないかの」
悩んでいるとカゼルドが助け船を出してくれた。
「……纏衣ってなんだっけ?」
呆れた顔をされた。
知ってて当然みたいな顔をしないでくれよ。
「魔力纏衣。その名の通り魔力を身体の表面に纏って身体を強化する法のことじゃよ」
「ああ、身体強化のことか」
あれって魔力纏衣っていうんだ。
勝手に『気』とか『念』とか『オーラ』って解釈してたわ。
日本でマンガ読んでた人なら仕方ないよ。
「纏衣と魔法の両方が使えるんですか」
ハコネキンにびっくりされた。
「ええまぁ……」
「それなのに木級…………やはり実力を……?」
「違います」
しつこいな。
なんか微妙にこのネタになると微妙にワクワクしてそうな空気が伝わってくるんだよな。
もしかして好きなシチュエーションなのか。
そんな疑惑を抱いてしまう。
「まぁこやつは事情があって色々特殊なんじゃ。それに経験不足なのは間違いないから木級で妥当よ」
「経験不足なのは反論できねぇ」
酒場がメイン業だとしても、こういう世界だから冒険者としての経験も積んでた方が安心だからな。
これからは少しこっちの方面でも頑張ろう。




