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戦国乙女ゲーのお市に転生したので、推しの柴田勝家ルートを現実で攻略します  作者: 一月三日 五郎


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第9話:金ヶ崎の戦い(if)――プライドを捨てた猪武者

「織田、徳川、浅井の連合軍が越前へ向けて出陣。

 ……盤上はかつてない混戦、まさに天下の分岐点ですね」


清洲城の本陣裏に設けられた天幕。


竹中半兵衛は、相変わらず病弱な貴公子然とした様子で、

卓上に広げられた詳細な戦術地図を細い指先でなぞっていた。


その隣で、私は祈るように両手を胸の前で組み、冷や汗をにじませながら地図を見つめていた。


信長お兄様が発した突飛な命――『お市争奪・朝倉征伐』。


その舞台となるのは、史実における「金ヶ崎の戦い」が行われた越前国だった。


戦況は熾烈を極めていた。


朝倉義景率いる朝倉軍を討つべく進軍した連合軍だったが、

越前の地の利と伏兵を活かした抵抗に苦しめられ、戦線は膠着していた。


信長お兄様は本陣から冷徹に戦況を注視している。


「……現在、最も華々しく動いているのは浅井長政殿です」


半兵衛が地図の右翼、浅井軍の進路を示した。


「長政殿はさすが近江の若き当主、土地の利を完全に把握しておられる。

 実直かつ鮮烈な一撃で敵の左翼を完璧に突き崩しました。信長様の評価もすこぶる高い」


(知ってた! 長政様は戦国アイドル枠にして、スペックも文句なしのチートキャラなんだよね……!)


「臨時に中央の最前線に立たされた柴田殿ですが……。

 長政殿の華麗な進撃と、相変わらず奇抜な挙動で敵を困惑させている徳川殿に挟まれ、

 功を焦るあまり敵の強固な防衛線に正面からぶつかり、兵を消耗させています。

 このままでは、一番に脱落しかねません」


「そんな……権六……!」


胸が締め付けられる。


勝家様は「お市様を想う心だけは誰にも負けない」と誓ってくれた。


その強い想いが、逆に彼を「早く手柄を立てなければ」と追い詰め、空回りさせているのだ。


(今のままじゃ、勝家様に勝ち目はない。

 長政ルートか家康ルートに強制突入して、勝家様はデッドエンド……。

 そんなの絶対に阻止する。正規の攻略法がダメなら、からめ手よ!)


私は決意を秘めて、隣の半兵衛を振り返った。


「半兵衛、私、ちょっと堺の豪商をハメて、最強の助っ人を雇ってくる!」


「……は?」


天才軍師が初めて素で呆気に取られた顔をするのを横目に、私はすぐに行動を起こした。


勝家様を勝たせるためには、

もう、お淑やかな姫のままではいられない。


◇◇◇


数日後。

自由都市・堺の最高級料亭。


私の前に座っているのは、今井宗久をはじめとした堺の豪商たちだった。


彼らの目は、獲物を前にした猛獣のように爛々と輝いていた。

金の匂いを嗅ぎつけた時の商人は、武士よりよほど獰猛だ。


「いやはや、お市様直々のお呼びだしとは恐悦至極。して、本日はどのようなお話で?」


揉み手をする商人たちに、私は不敵に笑い、

漆塗りの箱から『オセロ』の盤と白黒の一文銭を取り出した。


「皆さま、本日は矢銭の催促ではなく、天下を揺るがす『新たな利権』をお持ちしました」


私は盤上に銭を並べる。


「相手の銭を挟めば、自分の色になる。

 最後に多くの銭を自分の色にした者が勝ち。

 その名も――『オセロ』です」


「ほう……?」


商人たちの目の色が変わった。


この時代には存在しない、単純で奥深い盤上遊戯。

しかも、賭場や茶屋で流行れば莫大な利益を生む。


彼らは一瞬でそれを理解したのだ。


「これで私と勝負をいたしましょう。

 もし皆さまが勝てば、この遊戯の興行権・販売権をすべて差し上げます。

 ですが、もし私が勝てば――」


「勝てば?」


「三千貫。

 城が一つ建つほどの金を、即金で融通していただきます」


商人たちがざわめいた。


だが次の瞬間、彼らはニヤリと笑う。


「面白い。

 たかが女子の遊戯、我ら商人の先読みには敵うまい」


彼らは自信満々だった。


だが、彼らは知らなかった。


現代オセロの定石と、

推しが絡んだ時のオタクの執念を。


「なっ!? そこを返すのか!?」

「待て、角を取らせたのは罠だったというのか!?」

「わ、わしの石が……!」


パチパチパチ、と銭が裏返る乾いた音が響くたび、

豪商たちの顔が青ざめていく。


角を守り、辺を捨て、最後に盤面をひっくり返す。


現代オセロの洗礼を受け、

堺の豪商たちは完全に盤上で叩き潰された。


「勝負あり、ね」


私は盤を指で軽く叩いた。


「約束通り、三千貫、いただくわ」


◇◇◇


紀伊・雑賀の里。


薄暗いアジトの奥で、数々の火縄銃を愛おしそうに手入れしていた一人の男が顔を上げた。


不敵に吊り上がった口角に、鋭い鷹のような目。

肩に無造作にかけられたカラスの羽の外套。


戦国最強の狙撃手、雑賀孫一だった。


「織田の姫様が、こんなむさ苦しい場所に何の用だ?

 俺たちは金で動く傭兵だ。冷やかしならお引き取り願おうか」


孫一は火縄銃の銃口をこちらに向け、不敵に笑う。

私は臆することなく、商人たちから巻き上げた金が詰まった葛籠つづらをどんと床に置いた。


「御託なんてないわ。これで、あなたと雑賀衆を丸ごと雇いにきたの」


葛籠が開いた瞬間、黄金の輝きが室内の薄暗闇を照らし出した。

孫一の目が、わずかに見開かれる。


「……ほう。これだけの金を積むか。誰を殺せばいい?」


「誰も殺さなくていいわ。

 中央の最前線にいる柴田勝家……権六を、敵の猛射から全力で守りなさい!

 あなたたちの圧倒的な火力で、彼のために敵陣をこじ開ける盾になりなさい!」


孫一は一瞬きょとんとした後、ククク、と低く笑い、やがて大爆発したように笑い声を上げた。


「面白い! 誰かを討てではなく、泥臭い猪武者を守るために雑賀を雇うか!

 織田の姫君、あんたのその心意気と大金、確かに受け取った。

 雑賀衆、これより柴田権六の『最強の盾と矛』として参陣する!」


時は少しさかのぼり、金ヶ崎の最前線。


泥と硝煙が立ち込める戦場の中で、柴田勝家は膝をついていた。

周囲には傷ついた兵たちが倒れ伏し、正面の敵陣からは絶え間なく鬨の声が上がっている。


「……クソッ! 某は、またしても……!」


勝家は泥に汚れた拳で地面を叩いた。

焦れば焦るほど陣形は崩れ、敵の罠にはまった。


右翼の長政は目覚ましい武功を挙げ、左翼の家康も敵を圧倒しているというのに、

自分だけがこの無様。


(やはり、某のような泥臭い猪武者では、お市様を幸せにすることなど……叶わぬ夢だったのか……)


絶望が勝家の心を支配しかけた、その時。


ドォォォン!!! と、戦場を引き裂く凄まじい轟音が響き渡り、

勝家の目の前にいた敵の防衛線が一瞬で消し飛んだ。


「な、なんだ!? 何事だ!?」


驚愕する勝家の前に、カラスの羽をなびかせた男が、

無数の火縄銃を構えた集団を引き連れて現れた。


「よう、あんたが柴田勝家だな?

 織田の可愛いお姫様から、お前さんを死なせるなって仕事を請け負ってな。

 おい野郎ども! 姫さんのために、この猪武者の行く道をハチの巣にしてこじ開けてやれ!」


「雑賀衆……!? なぜ、我らの救援に!?」


困惑する勝家に、孫一はニカッと笑って一通の手紙を投げつけた。

そこには、お市の筆跡でこう殴り書きされていた。


『権六の大バカ者!!

 負けて帰ってきたら許さないんだから!


 綺麗に勝とうなんて思わないで!

 泥にまみれて、這いつくばってでも、

 勝って私のところに帰ってきなさい!』


「……お市様……」


その事実が、胸の奥にこびりついていた劣等感を焼き尽くした。


見栄も。

筆頭家老としての面目も。


もう、どうでもよかった。


(そうだ……某は、綺麗に戦う美男子などではない。

 ただの、戦うことしか能のない猪武者……鬼柴田だ!)


「ハハ……ハハハハ!」


勝家は泥だらけの顔を上げ、狂ったように笑い声を上げた。

その瞳に、敵を恐怖に陥れる『悪鬼』の光が宿る。


「皆の者! 我らには、世界一の軍師(お市様)がついている!」


勝家はゆっくりと立ち上がり、愛槍を強く握りしめた。


「雑賀の者ども! 某に続けぇぇぇ!!! 敵の本陣へ、突撃を仕掛けるぞ!!!」


「おいおい、気が合うじゃねえか! 撃てぇぇぇ!!」


孫一の号令とともに、千丁の火縄銃が一斉に火を噴く。

圧倒的な火力に守られながら、覚醒した勝家は一直線に敵の総大将が座る本陣へと突き進んだ。


戦術の定石を、歴史の強制力を、お市が用意した最強の助っ人と、

勝家の圧倒的な「執念」が力業で叩き潰していく。


「お市様ァァァ!! 某の背中を、見ていてくだされぇぇぇ!!!」


金ヶ崎の戦場に、鬼の咆哮が響き渡る。


本陣でその報告を聞いた私は、涙を流しながら笑った。


(いけ……! 戦国最強の突撃と銃撃で、歴史を塗り替えて見せなさい、私の勝家様!!)


私の「推し存続計画」は、一攫千金のギャンブルと最強の傭兵を燃料にして、

ついに歴史の壁をぶち破ろうとしていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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