第7話 ルクヴェル王国 ― “光を映す国” *挿絵
大陸の中央に位置する光の王国――ルクヴェル王国。
七つの国の均衡を保つ〈光の秩序機構〉を持ち、
“光の都”と呼ばれるその国は、
世界の秩序を支える中枢でもあった。
首都ルク=セリアは、
聖光竜ルクシオンの塔を中心に、放射状に築かれた都市である。
その形は“光の紋章”と呼ばれ、
昼は白金の街並みが陽光を反射し、
夜は千の灯が星のように街を照らす。
――まるで、光そのものが呼吸しているようだった。
馬車の窓から外を覗いたリリナは、
まぶしそうに目を細めながら呟く。
「きらきらしてる……」
そして、辺りを見まわしながら微笑んだ。
「自然は少ないのに、綺麗ですね」
「これが都ですよ、姫様」
マルナが嬉しそうに頬を緩めた。
この中央都市ルク=セリアには、
古くから学問と秩序を支えてきた王立学院がある。
その一角に、各国の次代を担う王子・姫君たちを迎える、
特別な学舎が設けられていた。
リリナは、しばしの間ここで学ぶことになる。
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来賓館に到着すると、
まるでその時刻を見計らっていたかのように、迎えの者が待っていた。
馬車を降りた先に、ひとりの男が立っていた。
胸には白金の紋章。
整えられた灰金色の髪が、陽光を受けて淡く光っている。
その姿を見たマルナが、わずかに息を呑んだ。
その姿勢は揺るぎなく、
まるでこの国の在り方そのものが、
そこに立っているようだった。
「遠路ご苦労であった、セレフィアの姫君。
私はライゼル・ヴァン・ルクヴェル。
王の代わりに、あなたを迎えに参った」
声は穏やかでありながら、
王国の重みを帯びていた。
リリナは一瞬、胸の奥がきゅっと強ばるのを感じた。
けれどすぐに息を整え、衣の裾を持って静かに一礼した。
「セレフィア王国より参りました、リリナ・エル・セレフィアでございます。
お迎えいただき、ありがとうございます」
そう告げると、ライゼルはわずかに微笑んだ。
「……黎光の花が、よくぞここまで。
その光、この国で確かにお預かりいたしましょう」
リリナは何と返せばいいか分からず、
ただ微笑んだ。
「王も、あなたの到着をお待ちでした。
ルク=セリアは広い。
この国では、光が道を示し、秩序が人を導きます。
迷われぬよう、その導きに従ってお進みください」
リリナはその言葉の意味をすべて理解できたわけではなかった。
けれど、“光が道を示す”という響きだけは、
胸の奥に静かに残った。
「……はい。ありがとうございます」
ライゼルの背後から現れた案内係が、
恭しく頭を下げた。
「姫様、こちらへどうぞ」
案内係に促され、リリナは来賓館の方へ向き直った。
少し先では、ひと足早く到着していた青年が、
案内を受けながら建物の中へと消えていくところだった。
霧の峡谷で出会った、あの穏やかな背中。
霧に溶けるような外套の裾が、
光を受けてわずかに揺れた。
(……エリオン様)
胸の奥で名前を呼ぶ。
けれど、声にはならない。
淡い余韻が胸に残り、
リリナの視線は、彼のあとを追っていた。
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リリナとマルナは、来賓館の中へと案内された。
廊下は白石造りで、
壁面に刻まれた光の飾り彫りが、
灯を受けて淡く浮かび上がっていた。
足音さえも、静寂に吸い込まれるようだった。
「各国の王子・姫君には、それぞれ来賓用の部屋が用意されております。
ただし、食事は合同となりますので」
通された部屋は、ひとりには広すぎるほどだった。
「セレフィアの姫君には、特別に配慮された一室をご用意しております」
まるで内緒話をするように、案内係が声を落とす。
リリナとマルナが顔を見合わせた。
「侍女様のお部屋も、別にご用意しております。こちらへ」
マルナが案内係と共に部屋を出ていく。
残されたリリナは、静かに室内を見渡した。
大きな窓から光が差し込み、
白い窓布が柔らかく揺れる。
机の上には、今後の予定を記した紙が整然と並べられていた。
『各国の王子・姫君が揃い次第、王立学院にて開講式を行う。
それまでは、自由に過ごされたし。
初日には名乗りの場を設けるため、各自準備を整えること』
紙の上に記されたその言葉を、
リリナは指先でなぞるように読んだ。
窓の外では、白金の街が静かに輝いている。
――新しい光の中で、
彼女の物語は、
静かに次の頁へと進もうとしていた。
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『白金の都、息をする光』




