第66話 触れた温度、ほどけた鼓動
エリオンは、そっと自分の背中をリリナへ向けた。
手で背の上部を示しながら、静かに説明する。
「背中と肩にある大きな筋肉が、このあたりです。
ここを中心に、首の付け根から肩先へ向かって……優しく揉みほぐすんです」
広い背中。
薄布の下で動く肩と腕の筋肉は、思っていたよりも逞しい。
エリオンは軽く肩を回しながら、実演してみせた。
「こんな感じです」
リリナは、息を忘れるほど見入ってしまっていた。
やがてエリオンが手を下ろし、振り返る。
慌てて目を合わせるリリナ。
ふたりの視線が、ふっと重なった。
「……できそうですか?」
「は、はい……!」
必死に頷くと、エリオンは柔らかく笑う。
リリナは自分の首の付け根へ手を当て、
教わった通りにそっと揉んでみる。
エリオンはすぐ横で、静かに見守っていた。
「肩に負担をかけないように……優しく、ですよ」
「はい……」
少し俯きながら頷く。
じんわりと、痛気持ちいい感覚が広がっていく。
「……効いてる感じがします」
照れたように笑うと、
エリオンも温かく微笑み返した。
「それなら良かったです」
そう言って――
エリオンは少し前へ身を屈める。
「ふくらはぎは、足首から膝へ向かって、下から上に流すように」
その動きに合わせて、
左胸元の布がわずかに揺れた。
(……今……)
印の影が、ほんの一瞬だけ見えた気がして――
リリナは慌てて視線を逸らす。
エリオンは気づかないまま、
両手で包むようにふくらはぎを支え、ゆっくりと動かしていく。
「アキレス腱のあたりは、足首を回しながらほぐすと、より効果的です」
そう言って上体を起こしたとき――
再び、目が合った。
リリナの頬の熱に気づいたのか、
エリオンは少しだけ眉を寄せる。
「……熱があるのでは?」
自然な仕草で、額へと手が伸びる。
リリナは驚きながらも、動けない。
「熱は……ありませんね」
そう言って、エリオンはやさしく笑った。
「でも――ここは熱いですね」
指先が、そっと頬に触れる。
やわらかな温度。
触れた場所から、心臓まで一気に熱が走った。
(……聞こえてしまう)
こんなに速く打つ鼓動が。
胸の奥で、静かに――
けれど確かに、言葉が形になる。
私……
エリオン様が、好き。




