第65話 雨のふたりと、そっと触れた手
光盾庭球の翌日――雨だった。
窓を静かに叩く雨粒。
昨日の眩しい陽射しが、嘘のように消えている。
リリナは長椅子に身を沈め、外を見つめていた。
身体がじんわりと重いのは、昨日、身体を動かしたせいだ。
光盾庭球場での光景が、次々と思い出される。
カイル、ルーク、エリオン、レヴィアン、ユリウス、レンセリオン――
皆が楽しそうに笑って、汗がきらきらと光っていた。
(また……お会いできるといいな)
胸の奥が、ほんのり温かくなる。
そのとき――
こつこつ、と扉を叩く音がした。
「……?」
重い身体を起こし、扉を開ける。
そこに立っていたのは――エリオンだった。
「エリオン様……!」
嬉しさが、そのまま表情に浮かぶ。
「講義の準備をされていたのでは……?」
そう尋ねると、エリオンは少し困ったように微笑んだ。
「ええ、していたのですが……
ひとりでいると、眠ってしまいそうで」
思わず、くすっと笑みがこぼれる。
「よければ……中に入りますか?」
エリオンは静かに頷いた。
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二人は長椅子に並んで腰を下ろした。
「リリナ姫様は、今日は何をして過ごされていましたか?」
「……ほとんど、横になっていました」
そう答えると、エリオンの瞳にふっと心配の色が宿る。
「体調が優れないのですか?」
「いえ、元気です!
ただ、少し身体が重くて……」
言った途端、エリオンは「ああ」とやわらかく頷いた。
「……どこが痛みますか?」
リリナは少し恥ずかしさを感じながら、肩とふくらはぎにそっと触れて示した。
その瞬間――
「少し、触れても?」
「……はい」
そう答えると、エリオンの手が伸び、ぽん、と肩に触れる。
「僕、身体を揉みほぐすのが得意でして。
家族に……長く病に伏していた者がいたので、よく、ほぐしてあげていたんです」
その言葉に、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
(家族……誰のことだろう?)
気づけば、エリオンのことを見つめていた。
エリオンはやさしく微笑み、肩にゆっくりと圧をかける。
「……っ」
声にならない息がこぼれ、顔が一気に熱くなる。
エリオンも驚いたのか、慌てて手を離した。
「す、すみません! 痛みましたか?」
「だ、大丈夫です!」
焦る声に、エリオンは一瞬固まり――
ふっと顔を背けて、くく、と肩を震わせた。
「……もう!」
恥ずかしさに耐えきれず、リリナは思わずエリオンの肩を軽く押す。
揺れるエリオンは、くすっと笑いながら、その手を拒むことなく受け止める。
そして――やわらかな声で言った。
「では……身体のこわばりをほぐす方法を、教えましょうか?」
“どうでしょう?”と問いかけるような、穏やかな微笑み。
リリナはまだ頬の熱を感じながらも――
そっと、頷いた。




