第44話 透き通る夜、揺れた想い
レンセリオンは、ほとんど口を開かずに歩いていた。
けれど、その歩幅は明らかにリリナに合わせられている。
エリオンの穏やかな歩みとは違い、
いつもは凛とした速さを纏う第一王子。
その彼が、今はゆっくりと隣を歩いている——
それだけで、胸がじんわりと温かくなった。
そっと見上げると、
レンセリオンが視線を重ねてくる。
目が合う。
胸が、跳ねた。
「透き通った夜です」
レンセリオンは小さく微笑み、夜空を見上げた。
「明日も、晴れます」
「分かるのですか?」
「はい。観天望気です」
彼は、空から視線を外さない。
(……いつも遅くまで働いているんだ)
ふと、そんな想いが胸をよぎる。
レンセリオンが不意にリリナへ視線を戻した。
また、目が合う。
「今日の講義……本当に、心に染みました」
リリナは思わず照れ笑いをこぼす。
「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
レンセリオンは、わずかに目を伏せた。
「僕には、迷っていたことがありました」
その瞳が、静かに揺れる。
普段は決して見せない“迷い”。
「ですが……今は、ひとつ思うのです」
ゆっくりと、言葉を選ぶように。
「……守りたい、と」
「え……?」
意味は分からない。
けれど、胸の奥だけが、じんわりと温かくなる。
「レンセリオン様の守りに勝るものなんて……ないと思いますけど」
困ったように笑いながら返すと、
彼もまた、柔らかく微笑んだ。
「以前から、そう思っていました……。
ですが——あなたの講義を聞いて、決意が固まりました」
(わたし……そんな言葉、言ったかな)
分からない。
でも、嬉しい。
リリナはふわりと微笑む。
その瞬間、
ふたりの間に、やわらかな光が静かに落ちた。




