第45話 聖光蛍の流れる場所で*挿絵
木立の小径を抜けると、ふいに空気が澄みた。
リリナは小さく息を呑む。
視界が開け――
そこには、白銀の水面が静かに広がっていた。
月光が流れを照らし、水は淡い光の帯となって揺れている。
「ここは……」
声に出した、その瞬間――
リリナの足元から、ひらりと光が舞い上がった。
一匹の、小さな白金の蛍。
「蛍……?」
その蛍がふわりと揺れ、リリナの胸元でやわらかく光る。
それだけでは、終わらなかった。
次から次へと、白金の光が草むらから舞い立つ。
水面からも、枝先からも――
まるで、夜そのものが光の粒となって、静かにほどけていくように。
レンセリオンが隣で、静かに言った。
「ルクヴェルにだけ棲む、聖光蛍です」
「なんて……綺麗……」
気づけば蛍は、リリナを包み込むように舞っていた。
髪に触れ、肩に寄り添い、ふわり、ふわりと揺れる光。
まるで――光の風。
レンセリオンは、その様子を息を止めたように見つめていた。
やがて、そっと視線を戻す。
「聖光蛍は、人の心の揺らぎを――
その“光”を映すと言われています」
その言葉に、リリナは小さく瞬きをした。
「光……?」
「はい。
迷いを抱けば離れ、
まっすぐな願いを持つ者には寄り添う」
その声は、夜風よりも静かだった。
「……今、あなたに向かっている光は――」
一瞬、言葉を選ぶように間を置き、
「あなたの中にある願いに、寄り添っているのだと思います」
リリナは、その光を見つめたまま、そっと唇を結んだ。
蛍が、呼応するように瞬く。
(願い……? 私の中にある……?)
レンセリオンは、ゆっくりと――
蛍の光に照らされた瞳で、言葉を紡ぐ。
「……私は、今日、
あなたの光に救われました」
リリナは言葉を失ったまま、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳は――
いつもの“騎士”の瞳ではなかった。
揺らぎを抱えながら、それでも前へ進もうとする――
ひとりの人の眼差し。
「あなたの言葉を聞いて……
守りたいと思ったのです」
蛍の光が、ふたりの間を漂う。
そして――
「リリナ姫。
私に……光を見せてくれて、ありがとうございます」
その言葉が落ちた瞬間――
一匹の蛍が、ふわりと、ふたりの手の間に降りた。
リリナはそっと手を伸ばす。
掌の上で、光が脈打つ。
鼓動のように。
「……綺麗」
「あなたの光です」
レンセリオンの声が落ちた、そのとき――
もう一匹の蛍が、彼の肩にも、そっと止まった。
まるで、互いの“光”を、確かめ合うように。
それは――
ふたりの心が夜に触れ合った、静かな“呼応”の瞬間だった。
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『掌に灯る、ふたりの光』




