第43話 静かな夜、君を呼ぶ光
夕食を終え、部屋に戻ったところで、リリナはまっすぐ長椅子へ身を沈めた。
どっと疲れが押し寄せるはずなのに、胸の奥は不思議と軽い。
光の講義を終えた安堵と、小さな達成感が広がっていく。
ゆっくり手を掲げ、掌で部屋の灯りをすくうように、そっと指を丸めた――そのときだった。
こつん。
窓辺から、小さく硬い音がした。
「……?」
身体を起こし、そっと窓へ近づく。
もう一度、こつ、と何かが触れる音。
窓掛けを少しだけめくると、外の闇がこちらを覗き返した。
窓を開け、夜風の匂いを吸い込む。
辺りを見回す――そこで、影が動いた。
光が届く場所へゆっくり出てきたその姿に、リリナは息を呑んだ。
「レンセリオン様……!」
声が漏れかけた瞬間、レンセリオンは人差し指を唇へ当て、“静かに”と目で告げた。
リリナは慌てて両手で口元を押さえた。
彼は小さく息を整えるように視線を逸らし、ほんの一瞬だけ、迷いを見せた。
その迷いが、かえって胸を締めつける。
そして――
覚悟を決めるように、片手をすっと上げ、
今度ははっきりと、手招きした。
控えめなのに、拒めないほどまっすぐで、
“来てほしい”想いが隠しようもなく滲んでいる。
(誘っている……? 私を……?)
胸の鼓動が早くなる。
こくりと頷くと、レンセリオンの肩が、ほんのわずか、安堵に揺れた。
リリナは部屋を出ると、早まる心臓をなんとか落ち着かせながら、廊下を静かに駆け抜けた。
⸻
来賓館の扉を開け、そっと外へ出た。
入口の暗がりに沈んだ段差に気づく前に、一歩踏み出してしまい――
「きゃっ……!」
そのまま、誰かの胸にぶつかってしまった。
額を押さえて顔を上げると――
「れ、レンセリオン様っ……!」
驚きで声が裏返る。
彼は、とっさに支えるように掴んでしまっていたリリナの腕から、慌てて手を離した。
「大丈夫ですか? ぶつかってしまいましたね……」
そう言いながら、わずかに視線を逸らし――
ほんの小さく、照れたように笑った。
「こんな形で、すみません。
どうしても……あなたと一緒に見たい景色があったので」
「景色……?」
リリナは額から手を離し、瞬きをした。
レンセリオンはほんの少し呼吸を整え、まっすぐに、迷いなく言った。
「一緒に行ってもらえますか?」
胸が跳ねる。
「……はい」
返事は驚くほど素直にこぼれた。
それを聞いた彼は、ふっと力の抜けたような笑みをこぼした。




