第41話 影に触れる光――レンセリオンの問い
小さな講義室に、静かな間が落ちた。
その沈黙の中――
ゆっくりと、ひとりが立ち上がった。
レンセリオンだった。
琥珀の瞳には、
騎士としての理性と、
――“同じ光を宿す者”としての迷いが、静かに揺れていた。
「二つ、お伺いしたいことがあります」
レンセリオンは短い間を置き、
まっすぐにリリナを見据える。
「――セレフィアの光は、影をどう捉えるのか」
「ルクヴェルでは、“影”は秩序を乱すものとして教えられてきました」
レンセリオンは、続ける。
「けれど、あなたは光を“奪わず、与えるもの”だと仰った。
その光が照らす相手に、影があるのは当然です」
声は穏やかだった。
だが、その奥には確かな意志がある。
「では……その影に対して、光はどのように寄り添うのでしょうか」
わずかに息を整え、言葉を結ぶ。
「影を退けるのか。
それとも、影ごと包むのか――」
その瞳が、まっすぐに問いかける。
「あなたの国では、光はどちらを選ぶのですか」
視線が、静かにリリナへと集まった。
けれどリリナは、迷わなかった。
静かに息を吸い、まっすぐに答える。
「光は、影を追い払うためのものではありません。
影に触れるために――差し出されるものだと、私たちは学びます」
やわらかく、けれど揺るがない声。
「影があるからこそ、光は意味を持つのだと思います」
その言葉に、レンセリオンの瞳がわずかに揺れた。
「……そうですか」
短くそう返した声は、静かだった。
だが――
まだ、確かめたいものが残っていた。
「……もうひとつ、よろしいでしょうか」
低く澄んだ声が、講義室に響いた。
リリナの胸に、静かな緊張が走った。
「祈りを捧げるとき……
あなたは“木が揺れ、光が応える”と言いましたね」
リリナは、静かに頷く。
レンセリオンは、かすかに視線を落としたあと――
静かに問いかけた。
「……それは、誰にでも起こることなのですか?」
その言葉の奥には、
言葉にならない想いが滲んでいた。
――“あなたの言う光に、俺は触れられるのか”
声には出さない問い。
リリナは、その静けさを受け止めるように、
ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「はい」
やさしく、まっすぐに。
「光は……誰かを選んで照らすものではありません」
少しだけ微笑む。
「触れようとした人に、応えてくれます」
レンセリオンは、息を止めた。
そして――
目を細め、わずかに笑う。
(……そうか。なら――)
胸の奥で、
光がかすかに脈打つ気がした。




