第40話 光に触れた心――揺れ始める七つの想い
リリナの語りが終わると同時に、
小さな講義室には柔らかなざわめきが広がった。
けれど、誰もすぐには立ち上がらなかった。
まるで――リリナの語った光の余韻が、
まだ胸の内に残っているかのように。
シリウスが静かに前へ出る。
「……では、質問のある方は手を挙げてください」
す、と上がったのは――ユリウスの手だった。
「セレフィアの“光との対話”……
とても印象的でした」
ゆっくりと言葉を選びながら、
ユリウスはリリナをまっすぐ見つめる。
その表情は柔らかい。
けれど瞳の奥には、鋭い光が宿っていた。
「ひとつ……伺ってもよろしいでしょうか、リリナ姫」
リリナは姿勢を正す。
ユリウスは、ほんのわずかに間を置き、
リリナの語りを静かに受け止めるようにして、口を開いた。
「セレフィアでは、“命は還る”と仰いましたね。
けれど――」
彼は机に指先を軽く添え、
問いを探るように視線を落とす。
「あなたが語ったのは、
“命の循環”と“自然との対話”でした」
顔を上げ、リリナを見据える。
「では――」
声が、ほんの少しだけ低くなる。
「生きている間に、人は“何を”世界へ返せばよいのでしょうか?」
小さな講義室が、ぴたりと静まり返った。
難しい問いだった。
けれど、それは“核心そのもの”でもあった。
リリナは息を呑む。
ユリウスは続ける。
「命は巡る。
魂も巡る。
世界に還る。……それは理解できます」
そして、静かに微笑む。
だが――瞳の奥だけが揺れない。
「では――
『生きている今』、人は何を“与える”ために存在するのか。
あなたの祈りからは、
そこが読み取れませんでした」
――挑むような鋭さ。
けれど、そこに悪意はなかった。
リリナは胸に手を当て、
静かに息を吸った。
そして――口を開く。
「……セレフィアでは、光は“自分のため”にあるものではありません」
ユリウスの瞳が、わずかに細められる。
「光は――
誰かを温めるために、差し出すものだと教わりました」
言葉は震えていない。
まっすぐで、柔らかな強さを帯びていた。
「自分の光は、自分だけのものではありません。
誰かの胸の闇を照らし、
誰かの歩む道を照らし、
誰かの息を守るためにある……と」
その瞬間――
ユリウスの表情が、ほんのわずかに揺れた。
――胸の奥に沈めていた“影”が、触れられたように。
(光は……与えるためのもの……?)
ユリウスは静かに礼を述べる。
「……美しい答えですね。
ありがとうございます」
だが、その横顔はかすかに乱れていた。
“光は誰かを救うためにある”
その言葉は、
彼の心の深い場所へ、静かに沈んでいった。
リリナは、静かに微笑みを返した。




