第33話 雨の朝のさざめき*挿絵
今朝は、とうとう“雨季の始まり”を知らせる雨が降っていた。
王立学舎の小さな講義室――
リリナは窓際の席に座り、
シリウスの到着を待ちながら、静かに雨の景色を眺めていた。
窓を打つ雨音は優しく、
霧のような白さが王都の輪郭をぼかしていた。
(……季節が変わろうとしている……)
ふと、背後から柔らかな気配がした。
後ろの席に座るエリオンが、開いた窓辺にそっと手を差し出す。
細い指の上に落ちた雫は、静かに渦を巻きはじめた。
誰にも気づかれないほど小さな、
透き通った水の渦。
「……すごい……!」
声を潜めるリリナに、エリオンは穏やかな笑みを返した。
もっとよく見たくて、
思わず手を伸ばした。
気づけば――
エリオンの掌の上に、自分の手が触れていた。
その瞬間、
水の渦はゆっくりと弱まり、
ほどけるように消えていく。
残されたのは――
静かに触れ合ったふたりの手だけ。
「……っ」
リリナは慌てて手を引いた。
ちらりとエリオンを見ると、
彼は雨の光の中で、やわらかく目を細めている。
そのとき、扉が静かに開き、シリウスが入ってきた。
リリナが姿勢を正すと、ふと視線を感じた。
目を向けると、
隣の席に座るレンセリオンと目が合った。
けれど彼はすぐに視線を外し、前を向いた。
「皆さま、おはようございます。
では、昨日の講義の続きを始めましょう」
シリウスは板書板へと歩き、
白墨の先で板書板を軽く叩いた。
とん――。
小さな音が、雨音の中に落ちた。
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『触れた瞬間、ほどける水』




