第34話(前編) 魂の理と、“印”を持つ者*挿絵
「七国にはそれぞれ思想があり、神獣が存在します。
そして、その神獣は国ごとに異なる加護をもたらします。
ここまでが昨日の講義内容です」
シリウスはそう言って、白墨で板書板に大きく一文字を書いた。
――“魂”。
「そして、この神獣には必ず“理”があります。
それが、この“魂”です」
板書板に記された字を軽く叩きながら、シリウスは続けた。
・セレフィア=黎光鳥アウル・ルミナリエ=希望
・アクエリシア=氷鱗の鯨・セレーネ=慈愛
・ソレイダ=焔獅子ヴァルガン=勇気
・スィルファリオン=蒼翼グリフォン・アイオロス=知恵
・テルメナ=大甲獣バルクレイ=誠実
・ルクヴェル=聖光竜ルクシオン=正義
・セレリオス=雷蝶エリシア=真実
「神獣の“魂の理”を体現する者が、各国にひとり存在します。
その者は、神獣に選ばれた証を持つ。
――“印”と呼ばれるものです」
「印とは、神獣が選んだ者の身体へ刻まれる“魂の紋”。
その者が、神獣の理を受け止め、国の魂と深く結ばれている証です」
リリナは、息を呑んだ。
(……私も、そのひとり……)
胸の奥が、きゅ、と締まる。
そのとき、シリウスの視線がレンセリオンへと向けられた。
「レンセリオンさん。差し支えなければ、皆さまに印を示していただけますか?」
リリナは思わず横を向いた。
見せやすい場所に印があるのだろうか……?
「いいでしょう」
レンセリオンはわずかな迷いもなく立ち上がり、
静かにシリウスの隣へ歩み出た。
そして、上衣の前を少し開いた。
……やっぱり、私と同じ場所。
リリナはそれ以上見られなくて、
片手で目元を覆い、窓の外へと視線を逸らした。
けれど耳は、しっかりと小さな講義室の気配を追っている。
視線を逸らす直前に見えた印は、
胸元に静かに刻まれていた――。
ほどなくして、レンセリオンは上衣を整え、席へ戻ってきた。
ちらりと横を見ると、
レンセリオンと目が合った。
……けれど、彼はすぐに静かに視線を外した。
その控えめな仕草に、胸がまた少し熱くなった。
「では……リリナさん」
突然名指しされ、
リリナは「はいっ……!」と思わず声を上ずらせた。
その瞬間、隣から小さく息がもれた。
レンセリオンが、ほんの少しだけ笑った気がした。
動揺を隠せないまま、リリナはシリウスへ視線を向ける。
「リリナさん。
あなたは“希望”の魂を宿しながら、
同時に、その希望を受け止める“器”でもあります」
「……はい」
――“器”。
分かっていた言葉なのに、
胸の奥が、ひゅ、と冷たくなる。
誰かに知られたくないわけじゃない。
でも、それはどうしてこんなにも重いのだろう。
静けさが、小さな講義室に落ちた。
誰も、すぐには言葉を持たなかった。
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『沈黙のまま、証はそこに』




