第313話 夜へ滲む決意
ナイトクロウ商会を後にしたレンセリオンは、ひとまず宿を取った。
部屋に入るなり――
真っ先に、頭に被っていたあの煩わしい帽子を寝台へ放った。
机の前に腰を下ろすと、すぐに筆を取った。
宛先は、第四騎士団――
聖光竜ルクシオン衛団副団長、カーディアス。
内容は簡潔だった。
白光酒の帳簿を調べる必要があること。
製造工場で、どれほどの量が生産され、
どこへ、どの名義で流れているのか。
ルクヴェルの名産品として扱われている以上、
表に出ている数字だけで済む話ではない。
小瓶へと直接つながる手がかりは、まだ掴めていない。
だが――
製造の過程に、必ず何かがある。
そう確信していた。
筆を置き、静かに息を吐く。
ふと、窓の外へ視線を向けると、
空はすでに、夕暮れの色へと移ろい始めていた。
(……リリナ)
胸の奥で、名を呼ぶ。
どこにいる。
今、どこで息をしている。
怖がらせたのは、俺だ。
君を追い詰めたのも、きっと俺だ。
それでも――
君の隣に立つ理由を、
誰かに与えられたものにはしたくない。
自分で見つける。
だから、
隠れていないで。
どうか、姿を見せてくれ。
レンセリオンは封書を丁寧に閉じ、
それを宿の者に託した。
そして、外へ出る。
太陽祭の熱気が満ちる、
舞と焔の都市――ルア=ソレル。
人波と音楽と焔の匂いの中へ、
彼は静かに溶け込んでいく。
夜は、まだ始まったばかりだった。




