第308話 影に導かれて
ルア=ソレル。
太陽祭も、今日で三日目を迎えていた。
広場では、舞の本番までの間、
今日もさまざまな催しが行われている。
昨日は道化師が笑いを振りまいていたけれど、
今日は太鼓の音に合わせたリンボーダンスだった。
挑戦者たちは身体を大きく反らし、
ぐんと下げられた長い棒の下をくぐり抜けていく。
失敗するたびに、広場は笑いに包まれた。
リリナも少し離れた場所から、その様子を眺め、
思わず笑みをこぼしていた。
――けれど。
ふと、胸の奥に冷たいものが触れ、
その笑みは静かに消えた。
(……そうだ)
思い出してしまったのだ。
あの時――
人混みの中で、背の高い男がこちらを見ていたことを。
目が合った瞬間、
その男は、にっこりと微笑んだ。
理由も分からないのに、ぞっとして、逃げた。
怖くて、振り返ることもできなかった。
――その直後に、レイヴと出会ったから。
すっかり、記憶の底に沈んでいた。
(……もしかして)
あの男が、
典礼官アゼル様……?
宴の前なら、視察に来ていても――おかしくない。
リリナは、そっと辺りを見渡した。
人の流れ。
笑い声。
太鼓の音。
――その姿は、どこにもない。
ほっと息をつきながらも、
胸のざわめきは消えなかった。
(……どうしよう)
行き場がない。
王宮は、危険すぎる。
それでも——
あの舞が、頭から離れなかった。
戻る場所も、決めきれないまま。
(……ミラさんが言ってた、灰鍋亭……)
途方に暮れ、空を仰いだ、そのとき。
――黒い影が、さっと視界を横切った。
「……?」
思わず立ち上がり、視線を追う。
建物の屋根の上に、巨大な獣がいた。
大きな身体。
しなやかな四肢。
燃えるような気配を纏った、その姿。
「……ヴァルガン……?」
獣は、こちらの視線に気づいたのか、
まるで誘うように、隣の建物へと跳躍した。
その動きは、驚くほど軽やかで、力強い。
屋根から屋根へ――
影は、先へ、先へと進んでいく。
胸が、高鳴った。
(……導いてる)
理由は分からない。
けれど、確信に近い感覚が、胸の奥で灯る。
――この先に、いる。
リリナは、迷うことなく駆け出した。
影を追って。
運命の方へ――。




