第31話(後編) 七国の基礎と、それぞれの光
書を開いた瞬間、
聖光竜ルクシオンの絵が真っ先に目に飛び込んできた。
けれど――
その姿は、リリナが実際に見たルクシオンとは、どこか違って見えた。
(……髭? 二本も……あったかしら……?)
首をかしげていると、
隣の席のエリオンが視線を送ってきた。
その瞳が、ほんの少しだけ笑っていた。
(やっぱり……エリオン様も、違うと思ったのね……)
「先程はセレフィアを例に出しましたので……
次はアクエリシアを例としましょうか」
シリウスが言って、ゆるやかにエリオンへ視線を向けた。
エリオンは、
何事もなく講義を聞いているような顔を、完璧に作っていた。
それがおかしくて、
リリナの口元にも、思わず笑みがこぼれた。
「アクエリシアといえば、セレナス湖が有名ですね。
湖畔には“祈りの小径”が続き、
旅人も民も、そして王族も、身分を問わず祈りを捧げる場所です。
都を訪れる者にも、広く親しまれています」
「では、次の頁をめくってください。
アクエリシアの守護神獣――氷鱗の鯨・セレーネです」
頁をめくると、
水竜のような姿をしたセレーネが、美しく描かれていた。
(これが……エリオン様の神獣……)
絵を見てからエリオンに視線を向けると、
エリオンが静かに、かすかに首を横に振った。
(……え? 違うの……?)
「《アクエリシア古文書・水譜記録》によりますと――」
シリウスは書を開きながら、
淡々と、しかし柔らかく読み上げた。
「“セレーネは湖に棲む大いなる水竜にして、
その吐息は朝霧を生み、鱗は露を宿す。
暁、湖面に黄金の目が瞬くとき、
水の国は祝福される”――とあります」
白墨が板書板を軽く叩く。
「そして、このセレーネの恩恵とされるものが、
“朝露が絶えない”という現象です。
慈愛が循環している証でもあります」
「このように、各国には思想があり、
それを体現する神獣が存在し、
国に特有の加護をもたらしています」
シリウスは書を閉じ、静かに言葉を結んだ。
「――さて。
次の講義では、もう少し深く踏み込みましょう。
“魂”の話に入ります」
一呼吸おき、微笑んだ。
「本日の講義は、ここまでです」




