第30話(前編) 七国の基礎と、それぞれの光
第一講義――『七国の基礎と、それぞれの光』
「これを語るには、まず、王立学舎に掲げられた象徴を見ていただきましょう」
そう言ってシリウスは、古い光の紋――ルク=セリアの大輪を、
板書板いっぱいに描き出した。
「大講堂で、ご覧になりましたね。
この八枚の花弁を持つ大輪……
それは、“八つの国がひとつの光のもとにあった時代”を象徴する、古い紋です」
白墨の粉が、光の線に沿ってふわりと舞い落ちた。
「今は沈黙の国となったミル=ノワールも、
かつてはこの輪の中にありました。
花弁ひとつひとつは国を、そして中心に宿る白金の光――
それこそがルクヴェルが掲げる『秩序の光』を示しています」
(……八つの国が、ひとつの光のもとに……)
リリナは胸の奥が静かに締めつけられるような感覚で、
シリウスの言葉に耳を傾けていた。
「私たちの世界で“七国”と呼ばれるのは、
セレフィア、アクエリシア、ソレイダ、スィルファリオン、テルメナ、
そしてセレリオス……最後に、このルクヴェルです」
シリウスは板書板に七つの名を丁寧に並べた。
「各国には、それぞれの思想と基盤があります」
・セレフィア=生命の循環と創世の息
・アクエリシア=静寂と受容・心の調和
・ソレイダ=行動する信仰・霧の中の勇気
・スィルファリオン=観察・調和・洞察の自由
・テルメナ=誠実・守護・未来への責任
・ルクヴェル=秩序・誇り・正義の守護
・セレリオス=真実・静寂・明察
「……そして、
ミル=ノワールは“沈黙”へ姿を変えました」
語られると同時に、
小さな講義室の空気がわずかに引き締まった。
「これらの思想と深く結びつき、
各国を象徴している存在――
それが“神獣”です」
そう言いながら、シリウスは各席に一冊ずつ書を置き始めた。
頁の厚みはあるが、表紙は簡素だ。
王立学舎で使われる、全員共通の学びの書。
リリナは両手で書を受け取り、そっと表紙に触れた。
「内容は同じです。――開いてみてください」
書の端に指をかけ、
頁をめくる音が、室内に一斉に広がっていった。




