第29話 ようこそ、王立学舎へ*挿絵
王立学舎の小さな講義室は、朝の光をやわらかく受けていた。
天井は高く、壁には各国の紋章と古地図が飾られている。
大講堂ほどの重々しさはないが、
特別に招かれた者だけが使う場の空気が、静かに漂っていた。
前方には、大きな板書板。
中央には、各国代表のために用意された六つの席――
異なる国の若き光が、ひとつの空間に集められていた。
扉が閉まると同時に、ひとりの男性が前へ進んだ。
「王立学舎副院長を務めています。
シリウス・エヴァンデルと申します」
柔らかな声だった。
薄い銀縁の眼鏡の奥で、灰色の瞳が静かに講義室を見渡していた。
穏やかだが、その眼差しには見落とすもののない鋭さがあった。
「今日から皆さまには――
それぞれの国を学び、互いの光を紡ぐ“学びの時”を歩んでもらいます」
彼は板書板へ歩み、白墨を手に取った。
とん、と講義室に響く控えめな音。
「まずお伝えしたいことは、この講義が“一方から授けるだけのものではない”ということです」
板書板に引かれる線はなめらかで、迷いがなかった。
「教える者は、私だけではありません。
――皆さま一人ひとりも、この講義室で学びを分かち合う者になります」
六つの席に、わずかな緊張が走った。
集められた若き後継者たちが、互いに視線を交わした。
シリウスは穏やかに微笑み、言葉を続ける。
「世界は、一国だけでは語れません。
皆さまの歩いてきた土地には、
その国でしか育たない息吹と、長い記憶があります」
板書板の端に、簡単な地図の輪郭が描かれた。
その一角に、若葉の形がそっと添えられた。
「例えば――セレフィア王国のリリナ王女。
あなたが見てきた自然の在り方は、
この学舎に集う者たちにとって、新たな驚きとなるでしょう」
リリナは一瞬、驚いたように目を瞬かせた。
自分の見てきた景色にも意味があるのだと、そっと背中を押された気がした。
「この特別講義で学ぶということは、
互いの光を分かち合うことです。
私が一方的に伝えるだけでは、世界の形は見えてきません」
講義室に、静かな呼吸のような間が落ちた。
「どうか、恐れずに。
皆さまの持つ知と経験は、この講義室にとって宝です」
シリウスは板書板から手を離し、六人に向き直った。
「今日から――ここは、皆さま自身が語る世界の“地図”になります」
その言葉に、講義室の空気が少しだけ引き締まった。
「では、始めましょう。
第一講義――『国々の基礎と、それぞれの光』」
講義室の静けさが、
まるで物語が開かれるのを待っているように息づいていた。
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『白墨で描かれた世界の略図』




