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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第四章 焔国の導き、影に触れる勇気
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第306話 火を携えて

聖炎大神殿で分けられた炎壺を載せた小さな馬車は、

ルア=ソレルへ続く街道を静かに進んでいた。


ミラは炎壺のそばに座り、

両腕でそれを支えるように抱えている。


レイヴは向かいに座り、

窓の外へ流れる赤土の道を見ていた。


やがて、ルア=ソレルの外門が見えてくる。


火の頂へ続く道の前で馬車を降りると、

ミラは炎壺を抱え直し、淡々と歩き出した。


「……いい加減、ひとりで行きなさいよ」


前を向いたまま、ぽつりと告げる。


「私はもう嫁いだ身。

巫女でも、聖域の人間でもないわ」


「……うん」


短く返すと、レイヴは足を止めた。


振り返り、ソル=アルテの方角へ目を向ける。


遠く、ヴァルカノの赤光が、

空の端にまだ淡く残っていた。


火は、変わらずそこにある。


燃えすぎることもなく、

消えようとすることもない。


――温度を保ったまま。


小さく息を吐き、

レイヴは再び歩き出す。



しばらく、沈黙が続いた。


「……で」


ミラが、ちらりと横目で弟を見る。


「あの子と、交熱したの?」


レイヴは一瞬だけ視線を向け、半笑いを浮かべた。


「……俺を管理するのは、やめてくれ」


「はいはい」


ミラは肩をすくめる。


「火を受け取りに行くのには、私を連れてくるくせに。

でも自分の話はやめてくれ、って?

……ずいぶん都合がいいわね」


レイヴは、思わず小さく笑った。


ミラが、じっと顔を覗き込む。


――答えを待つ目。


観念したように、レイヴが口を開く。


「……交熱、した」


その瞬間――


ミラの足が、容赦なく脛に入った。


「ちょっ――! 火が消えるだろっ!」


慌てて炎壺を覗き込むレイヴ。


炎は、変わらず灯っている。


「……っ」


安堵の息。


そして、小さくため息をついた。


「交熱のイメージが悪いのは、姉さんのせいだ」


ミラはくすくすと笑う。


「そこまで考える相手なら――」


ほんのわずか、声がやわらぐ。


「もう、その布をほどく時でしょう?」


顎で示され、レイヴは自分の左手を見る。


布の下にあるもの。


神獣ヴァルガンに選ばれた、誇りの印。


かつて、答えを持つのは

“過去のあの子”だと思っていた。


最初に炎が応えた、名も知らぬ少女。


――けれど。


エルに出会った。


理由のない引力。

護れる、と本能が告げる感覚。


燃やす相手ではなく——

燃え続けたい相手。


レイヴは、静かに布をほどいた。


露わになった炎紋が、淡い光を受けて浮かび上がる。


ミラは満足そうに微笑み、ひとつ頷いた。


「……行きなさい、焔の舞手」


その声は、姉であり――

かつて巫女だった者の、


炎を送り出す言葉だった。

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