第303話 火が応えた夜
「ねぇ……」
少し迷ってから、リリナは口を開いた。
「レイヴ。
自分の答えを持ってる人を探してるって、言ってたよね。
その話……聞いてもいい?」
レイヴは、ゆっくり振り向いた。
一瞬、遠くを見るような目をしてから、
短く息を吐く。
「……エルはさ。
俺の舞、綺麗だったって言ってくれたよな」
「うん」
頷くと、レイヴは照れたように笑った。
「でも、昔はさ……
ああいうふうに立てなかった時期があった」
言葉を探すように、少し間が空く。
「火のそばにいるのは、ずっと当たり前だった。
この国じゃ、誰でもそうだろ?」
リリナは静かに頷く。
「でも……」
レイヴの視線が、わずかに下がる。
「ただ近くにいるだけなのに、
周りがざわつき、怖がられることがあった」
無意識に、レイヴは左手を握る。
「理由は分からなかった。
俺が悪いのか、
火が悪いのか……」
少しだけ笑う。
「正直、ずっと分からなかった」
その声には、昔の戸惑いが滲んでいた。
「ある日さ」
ふっと、表情が柔らぐ。
「何も考えずに立ってたことがあった」
「見せようとも、
証明しようとも思ってなかった」
「ただ……
そこにいてもいいって、思えた」
リリナの胸が、静かに鳴る。
「そしたら……不思議なんだけど」
レイヴは小さく笑う。
「周りが、静かだったんだ」
「誰も怖がらなくて、
俺自身も、無理をしてなかった」
火が弱くなったわけじゃない。
でも――
あの日の火は、ただそこに在った。
「火が変わったのか、
俺が変わったのか――
今でも、分からない」
そう言って、胸元に軽く手を当てる。
「でも、その感覚だけは残ってる。
ずっと、ここに」
理由も、名前もない。
それでも、消えない感覚だった。
「だからさ」
レイヴは視線を逸らしながら、ぽつりと続けた。
「エルに“綺麗だ”って言われたとき……
あの日と、同じ感じがした」
言葉を選びながら。
「怖くないって、
そのままでいいって言われた気がしてさ」
リリナは、思わず息を呑んだ。
胸の奥が、静かに熱くなる。
「だから、探してるんだと思う」
「俺のそばに立っても、
逃げない人を」
レイヴは、まっすぐ彼女を見る。
少しだけ間が落ちる。
それから、静かに。
「……エルは、どう?」
一瞬、時間が止まった気がした。
その言葉に――
胸の奥で、静かな熱が、確かに息をしはじめた。




