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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第四章 焔国の導き、影に触れる勇気
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第298話 香る火、重なる影

火祭りのざわめきが遠のいたあと、

ふたりが辿り着いたのは、街の中心から少し離れた高台に建つ屋敷だった。


夜の帳の中、石造りの門が月光を受けて淡く浮かび上がる。

灯籠が並ぶ小道の先に、重厚な扉が静かに佇んでいた。


太陽神の紋章が刻まれた古い屋敷。

けれど、どこか人の気配は少なく、静かだった。


「ここ。神官の家って言っても、今は俺しか住んでないけどね」


レイヴが扉を押し開けると、

内側から、ふわりと香の匂いが流れ出した。


「……いい匂い」


案内されたのは、屋敷の一角にある小さな客間だった。


厚手の絨毯、低いテーブルとソファ。

壁際には小さな暖炉があった。


「ご家族は……?」


飲み物の入ったグラスと、ぶどうの皿をテーブルに置きながら、

レイヴは短く答えた。


「ソル=アルテにいる」


――ソル=アルテ。

火山〈ヴァルカノ〉に近い、聖炎都市。


名前だけは知っている。

けれど、そこに暮らす人々の感覚までは、まだ実感がなかった。


リリナは、そのまま黙って聞いていた。


「俺は、この街が好きなんだ。

家にいると、どうしても父親の目が届くからさ」


なるほど、と頷く。

そういう事情なんだ。


「それに……父親とは、一緒に暮らせない」


それ以上は語らない声だった。


「……色々あるんだね」


そう言うと、レイヴは可笑しそうに少しだけ笑った。


「座りなよ」


先にソファに腰を下ろすレイヴ。

リリナも少し間を置いて、その隣に座る。


レイヴはテーブルの端に置かれた小皿に手を伸ばし、

木片のような香に、ふっと息を吹きかけた。


次の瞬間――

香が、ゆらりと煙を上げる。


「え……? どうやって火をつけたの?」


驚いて身を乗り出すリリナに、

レイヴはくすっと笑う。


「……残り火、あった」


本当だろうか。


見上げると、彼は肩をすくめた。


そのまま、ぶどうを房からひと粒取ると、

ひとつは自分の口へ。

もうひとつを、リリナの唇の前へ差し出した。


「……先日もらったんだ。甘いよ」


一瞬、動けなくなる。


恥ずかしさに頬が熱くなりながら、

そっと口を開けかけて――

結局、慌てて自分の指で受け取った。


レイヴは何も言わず、その様子をじっと見ている。


目を合わせられず俯いた瞬間、

距離が、ぐっと縮まった。


香の匂いが近い。

部屋の匂いなのか、レイヴの匂いなのか――

分からなくなるほど。


レイヴは、空いた手でリリナの手首に触れ、

預けたままのブレスレットに指先を滑らせた。


「あ……これ、返さないと……」


外そうとしたリリナの手を、そっと止める。


指が絡み、離れなくなる。


心臓の音が、うるさい。


「……持ってて」


その声は、低くて静かだった。


顔を上げた瞬間、

視線を逸らす間もないほど、距離が近い。


レイヴの呼吸が、すぐそこにある。


息が、触れそうで――


視線が、絡む。


次の瞬間――


影が重なり――

唇が、触れた。


やさしく。

けれど、確かな熱を帯びて。


「……っ」


胸の奥が跳ね上がり、

リリナは思わず目を閉じた。


香の匂いと、彼の温度に包まれて――

その一瞬は、確かに“火”だった。

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