第296話 燃え残る火、手のぬくもり
民衆は、まだ踊っていた。
焔の輪に残る熱が、夜気の中でゆっくりと揺れている。
リリナはレイヴに手を引かれ、踊りの輪から外れた。
ふたりとも汗でびっしょりだったが、重なった手は不思議と不快ではなかった。
舞の余熱が、まだ身体に残っている。
そのまま――
レイヴの指が、わずかに力を強めた。
引き寄せられる。
一歩、距離が詰まって――
気づいたときには、腕の中にいた。
「……っ」
驚いて見上げると、覗き込むように視線が重なった。
頬を伝う汗が、火の明かりを受けてきらきらと光っている。
「エルの中で灯った火――」
レイヴは少しだけ声を落とす。
「消えないように――
俺が、ついてる」
静かにそう言われ、
リリナは胸の奥があたたかくなるのを感じた。
踊りの余韻もあって、気持ちはまだ高揚している。
理由なんて、いらなかった。
ただ――
彼を信じられる気がした。
レイヴはそっと身体を離すと、今度は手を握り直した。
「ほら。あっちの屋台、すごい行列だ。行ってみようか」
祭りのざわめきが、再びふたりを包み込む。
香ばしい匂いと甘い香りが漂う通りを、手をつないで歩く。
「……わ、いい匂い」
リリナの目がぱっと輝いた。
「これは“火焼き鳥”。
炭じゃなくて“火石”で炙るんだ。火の旨味が染みててさ」
「食べてみたい……!」
その様子に、レイヴがくすっと笑い、小銭を差し出した。
「太陽祭だし、祭りの福ってことで」
焼きたての串を受け取り、口に運ぶ。
じゅわりと溢れる肉汁と香辛料の刺激に、思わず声が漏れた。
「……おいしい……!」
「だろ? 毎年食べてるけど、変わらない味だ」
並んで食べる串料理。
笑い声と熱気が、自然と心をほぐしていく。
そのとき――
「おい、レイヴじゃねぇか!」
通りがかった中年の男が声を張り上げた。
「今日はもう帰ったと思ってたぞ」
「……あ、本当だ。“焔の舞手”じゃん」
周囲がざわつき、視線が集まる。
レイヴは片手を上げて軽く笑った。
「焼き鳥食べたくなってさ」
「へぇ~、女の子と一緒とは珍しいな。
噂じゃ女に困らないって聞くけど?」
「やめろって……ほんと」
少し照れたように手を振るレイヴに、
リリナは思わずくすりと笑った。
「……すごいね。有名人なんだ」
小さく呟くと、レイヴは肩をすくめる。
「それなりに、ね」
「エルだって、俺のこと知ってたんじゃないの?」
そう言われて、リリナは一瞬言葉に詰まる。
「……うん」
俯く横顔を、レイヴが静かに見つめていた。
「エルって、何歳?」
「え?」
指で数字を作って見せると、
レイヴは少し驚いたあと、嬉しそうに目を細めた。
「へぇ」
「レイヴは?」
人差し指を一本立てる。
「一つ上?」
何度も頷くレイヴ。
「そう」
ふたりは顔を見合わせ、
どちらからともなく、照れたように笑った。
焔の国の夜は、まだ続いている。
その中で、確かに――
消えずに残る火が、
ふたりの間に静かに灯っていた。




