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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第四章 焔国の導き、影に触れる勇気
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第294話 触れた火、隠された願い

リリナとレイヴは、広場に面した建物の陰に並んで腰を下ろしていた。

すぐ先の広場では、道化師がまだ観客を沸かせている。


笑い声と拍手が、火の明かりと一緒に、熱を帯びた空へ溶けていった。


「……私、さっき、あの舞台に立ったの」


何気なく言うと、レイヴが広場の方へ視線を向けた。

舞台袖を隠す布の向こうを探るように、目を細める。


「へぇ」


その反応に、リリナは一瞬だけ思う。


――じゃあ、見てたわけじゃなかったんだ。


屋台に並んでいた自分を、たまたま見つけた?


「何かしたの?」


レイヴがそう聞いてくる。


「うん。玉を投げたの。ちょっと楽しかった」


そう言うと、彼は小さく笑った。


「そっか。楽しそうでよかったな」


「レイヴは? どこにいたの?」


問い返すと、彼は舞台袖を指さす。


「布で見えないけど、あの裏にずっと」


「踊りの練習?」


「練習っていうより……通しとか、合わせとか。そんな感じ」


なるほど、と頷く。


沈黙が落ちる。

けれど、不思議と気まずくはなかった。


そのとき、リリナは気づいた。


――左手。


レイヴの左手には、布が巻かれている。

昨夜も見た、それ。


視線をそこへ落としたまま、思わず口にしていた。


「……怪我、してるの?」


そう言って顔を上げた瞬間、視線がぶつかる。


「え……あ」


慌てて目が泳ぐリリナ。


「……してる、ように見える?」


曖昧な答え。


また、視線が重なった。


胸が、妙にうるさい。


リリナはそっと目を逸らし、

気づけば、彼の手の甲へ自分の手を伸ばしていた。


「……!」


レイヴが一瞬、驚いたように手を引きかける。


「ご、ごめんなさい……! 痛かった?」


「いや……」


少し間を置いてから、


「……痛くは、ないけど」


「じゃあ……」


勇気を出して続ける。


「早く治るおまじない、するから。手、貸して?」


レイヴは一瞬、言葉に詰まったようだったが、

やがて小さく笑った。


「……どうぞ」


布の巻かれた手を差し出される。


リリナは、その手を両手で包み込んだ。


あたたかい。


指先から、かすかな熱が伝わってくる。

それは火の温度というより――

人の鼓動に近い、静かなぬくもりだった。


目を閉じ、意識を集中する。

いつものように、治癒の感覚を探る。


――けれど。


……何も、起きない。


あれ……?


力が、流れない。


戸惑いながら目を開けると、

レイヴが少し楽しそうにこちらを見ていた。


「……終わり?」


リリナは苦笑し、首を傾げる。


「……傷、あるの?」


何気ない確認だった。


けれど、その瞬間。

レイヴの表情から、ふっと笑みが消えた。


「あ……! 疑ってるとか、そういう意味じゃ……!」


慌てて言い訳すると、

彼は少し間を置いてから、小さく笑った。


「……傷、ないよ」


「え……?」


驚いて、手を離す。


「もう……!」


照れ隠しに、少しだけ怒ったふりをする。

怪我していると思って、勝手に触れてしまったことが、急に恥ずかしくなった。


「じゃあ、どうして布を巻いてるの?」


問いかけると、レイヴはほんの一瞬、視線を遠くへ流した。


「……願かけ、かな」


「願かけ?」


彼は、ゆっくり頷く。


「俺の答えを、持ってる人を探してる」


その声は、さっきまでより少し低くて、

どこか遠くにあるように感じられた。


火の揺らめきが、彼の横顔に一瞬だけ宿る。


近くにいるはずなのに、

触れたはずなのに――


その一言で、レイヴは少しだけ遠い存在になった。


リリナは、胸の奥に残った温度を、

そっと確かめるように息を吸った。

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