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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第四章 焔国の導き、影に触れる勇気
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第291話 余熱の朝、火はまだ眠らない

翌朝、太鼓の音で目が覚めた。

夢の続きを叩くみたいに、低く、規則正しい音。


――太鼓は、一日中鳴り続けていた。


眠い目をこすりながら部屋を出ると、ソレイス夫妻はすでに元気いっぱいだった。


「おはよう、エル」


「……おはようございます」


挨拶を返しながら、思わず聞いてしまう。


「あの……この国の人たちって、ちゃんと寝てますか?」


ミレナは一瞬きょとんとして、それから楽しそうに笑った。


「太鼓の音かい?」


リリナが頷くと、ミレナは肩をすくめる。


「太陽祭の間はね、火を絶やさないんだよ。

火も、音も、気持ちも――燃え続けるのが、この国さ」


小さく頷いた。

確かに、身体の奥にもまだ熱が残っている気がした。


「今日はね、午前中だけ店を開けて、午後からは私たちも祭りに出るよ」


「分かりました」


そう返事をしながら、リリナはふと手首に視線を落とす。


――ブレスレット。


昨夜、預けられたもの。

触れると、指先がかすかに熱を思い出す。


夢じゃなかった。


「エルは、焔の舞手に、それを返しに行くのか?」


アランの声に、はっと顔を上げる。


「……レイヴさん、今夜も舞をされますか?」


問いかけると、ミレナが答えた。


「日没からが本番だね。

その頃には、きっと姿を現すよ」


じゃあ、それまで――人探し。


そう思った瞬間、胸が少しだけざわついた。


どうやって探す?

どこにいるかも分からない相手を。


……それなのに。


なぜか、足はもう外へ向く気でいる。


「これ、持って行きなさい」


ミレナが家の鍵を差し出した。


「私たちが留守でも、自由に出入りしていいからね。

休める時は休んで。食料もあるし」


そう言って、もうひとつ――

お金の入った巾着袋を手渡される。


「歩く宣伝のお駄賃だよ」


「えっ……いいんですか? ありがとうございます!」


喜ぶリリナに、二人はにっこりと笑った。


「それと、これが今日の衣装」


差し出された布を広げて、思わず声が出る。


「……可愛い!」


桃色を基調に、差し色として入る赤。

柔らかいのに、どこか熱を感じる色合い。


「早速、着てみます!」


身支度を整えて部屋を出ると、二人が同時に振り返った。


「まぁ……可愛いわ、エル」


ミレナが目を細める。


「アラン、さすがね」


アランは満足そうに頷いた。


「もしかして……この衣装、アランさんが?」


「そうだよ」


ミレナが少しだけ拗ねたように言う。


「この人、女性の魅力を引き出す天才なの。

生粋の女好きなのかしら?」


「おい。俺は舞酒場には行かないだろ?」


「……そうね。ごめんなさい」


二人のやり取りに、リリナは思わず笑ってしまう。


「ありがとうございます」


お礼を言うと、アランは照れたように視線を逸らす。


「着てくれて、こっちがありがとうだ」


「朝食、作ってあるから食べてね。

私たちは仕事するよ、アラン。旅費分、取り戻すわよ!」


そう言って、二人は店の方へ消えていった。


テーブルの上には、スープと、焼いた肉と野菜を挟んだパン。


スープをひと口。


赤唐果と乾燥肉を煮込んだ、辛口の味。

一瞬むせたけれど、すぐに癖になる。


水と交互に飲みながら、気づけば完食していた。


――よし。


ブレスレットに、もう一度そっと触れる。


外そうとすれば、できた。

けれど、なぜか……しなかった。


リリナはそのまま、外へ飛び出した。


太鼓の音が、今日も街を満たしている。

火の国の朝は、もう始まっている。

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