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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第四章 焔国の導き、影に触れる勇気
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第290話 知らぬまま、火を渡して

ソレイス夫妻の家に戻ると、

ミレナとアランは卓を囲んで、屋台料理を広げた。


香ばしい匂いが、部屋いっぱいに満ちていく。


太陽祭の夜の熱が、まだ指先に残っていた。


「太陽祭、楽しめたかい?」


ミレナにそう聞かれて、

リリナは嬉しそうに頷く。


「舞を見ました!」


「ハル=セラたちが舞う、陽炎の舞だね」


ミレナが、やわらかく微笑む。


「太陽神と神獣ヴァルガンへの感謝を表す舞よ。

明るくて、力強かったでしょう?」


「あの舞……陽炎の舞だったんですね」


興味深そうに頷くリリナに、

アランも楽しげに言葉を添えた。


「焔の輪を囲んで踊ると、

“自分の中にも火がある”って信じられるようになるんだ」


「火は誰かのものじゃない。

みんなの中で燃えているんだ、ってね」


「そうなんですね……」


「エルは、踊ってみたかい?」


ミレナにそう聞かれて、

リリナは首をぶんぶんと横に振る。


「どう踊っていいのか、分からなくて……」


「そんなもの、隣の人を真似すればいいのよ」


ミレナは楽しそうに笑う。


「エルも、自分の中にある火を感じてごらん」


――自分の中に、ある火。


ふと、あの舞が脳裏をよぎる。


「あの……さっき“ハル=セラ”って言ってましたけど、

ハル=セラって……?」


「“陽の家(ハル=セラ)”の巫女たちのことさ」


アランが答える。


「王族に次ぐ聖職の一族でね。

祈りと舞で、この国を護る者たちだよ」


「じゃあ……」


胸が、きゅっと鳴る。


「“焔の舞手”も……?」


アランが当然のように頷いた。


「アレスタ家の者だな。

現神官長のご子息――レイヴだろ?」


リリナは、こくりと頷いた。


……やっぱり、すごい人だったんだ。


「どんな人ですか?」


そう尋ねると、

ミレナが「おや」と、わずかに表情を変えた。


リリナは慌てて手を振る。


「い、いえ! そういう意味じゃ……」


「隠さなくていいわよ」


ミレナは、くすっと笑う。


「祭事でレイヴの舞を見たら、

しばらく他のことが頭に入らなくなるもの」


「あの舞はね――神がかってるのよ」


……確かに。


私も、その一人だった。


そう思った、そのとき。


ミレナの視線が、ふとリリナの手首に落ちた。


「そのブレスレットは?」


「えっ……あ、これですか?

えっと……預かりました」


「預かる? 誰のだい?」


一瞬、言葉に詰まる。


「……レイヴさんのです」


ミレナとアランが、顔を見合わせた。


「レイヴと交熱したのかい?」


「えっ!?」


リリナは慌てて首を振る。


「ち、違います!

ミレナさんの言った通り、視線は逸らしました!」


ふたりは再び目を合わせてから、

静かに言った。


「エル……分かってないね」


アランが続ける。


「目を逸らさず見続けた者が、“熱を贈った側”。

受け取った者は、それに“熱を返す”のが礼儀なんだ」


リリナの心が、大きく揺れる。


「舞を見たって言ってたけど……

エル、見てたのはレイヴだろ?」


戸惑いながらも、頷く。


ミレナが、そっとブレスレットを指さした。


「形は人それぞれだけど――

レイヴは、ちゃんと“熱を返してる”」


そして。


やさしく、けれどはっきりと告げる。


「……つまりね」


一拍、置いて。


「熱を贈ったのは、エル。

あなたのほうよ」


言葉を失った。


――いつの間に、そんなことに。


確かに、見ていた。

何度も、何度も。


でも――それだけなのに。


「でも……これは、明日返してって……」


戸惑いながら言うと、

ミレナは楽しそうに笑った。


「ソレイダの男を知る、いい機会じゃない」


「しかも相手がレイヴだなんてね」


アランも、苦笑混じりに肩をすくめる。


「本当に……面白い子だよ、エルは」


リリナは、そっと手首に視線を落とした。


重ねられた、ふたつの輪。


火の光を受けて、静かに揺れている。


――また、会ってもいいのかな。


胸の奥に残る、名前のつかない熱。


それを――


確かめたいと、思っている自分がいた。

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