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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第四章 焔国の導き、影に触れる勇気
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第288話 火は、呼び合う

太陽祭の熱気は、夜が更けても冷めることなく、

街全体を燃やし続けていた。


太鼓の音。

揺れる火影。

跳ねる笑い声。


そのすべてが混ざり合う中で――


リリナの視線は、ただ一人を探していた。


――さっきの踊り手を。


(さっきの……あの人)


火を纏ったかのように舞い、

目が合うたび、火を灯すように微笑んだ、あの踊り手。


名前も知らないのに――


胸に残ったあのひとときが、どうしても消えてくれなかった。


「ねえ……さっき、広場で踊ってた人。誰か知ってる?」


屋台の娘に声をかけると、

娘は一瞬目を丸くしてから、ぱっと笑った。


「赤い衣の、背の高い人?

ああ、あれ“レイヴ”だよ」


手を止めた娘は、少しだけ声をひそめる。


「この国じゃ有名な舞手。

“焔の舞手”って呼ばれてるんだよ。


太陽神の神官の家の出なんだって」


「太陽祭になると必ず現れて、

あんなふうに火と一緒に踊るの」


「……焔の舞手……」


リリナが呟くと、

娘は夢を見るような目でうなずいた。


「本物の火の精みたいでさ。

あたし、毎年見てるけど……


今年がいちばん、すごかった気がするなぁ。


なんか……火が違った。」


ふと、娘が周囲に視線を巡らせる。


「でも、たぶんもういないよ。

あの人、ひととおり舞ったら、すぐ消えちゃうんだ。


“火の風”みたいにね。

現れて、燃えて、消える。」


(……そんな)


胸が、きゅっと縮んだ。


リリナは人混みの中へ踏み出した。


火の輪の中心も、踊りの列も――

どこを見渡しても、彼の姿はない。


似た背格好の影に近づいては、違う。


焚き火の陰から呼ばれた気がして振り返っても、

そこには、ただ揺れる火影だけ。


人々のざわめきが、少しずつ遠ざかっていく。


胸に灯った火が、

夜風に吹かれて消えてしまいそうで――怖かった。


(もう……無理かもしれない……)


そう思って、足を止めた、そのとき。


風が、そっと頬を撫でた。


遠くで、鼓の音がひとつ――低く鳴る。


そして――


「……やっと、見つけた。」


熱を帯びた手が、

やさしく、けれど確かな力でリリナの手首をつかんだ。


驚いて振り返る。


そこにいたのは――


赤金の衣。

燃えるような瞳。

そして――あの微笑み。


「探してた。……君のこと」


火の明かりが揺れる中、

その笑顔は、さっきよりもずっと近くて、


あたたかくて、

まるで灯火そのものだった。


その瞬間。


胸の奥で――

ふたたび、いや、それ以上に強く、火が灯る。


(……どうしてこんなにも)


その火が、静かに燃え広がろうとしたとき。


「ねえ――ちょっと、こっち来ない?」


彼が、ほんの少しだけ顔を寄せて囁く。


その声は、太鼓の喧騒とは違う温度を帯びていて――


ただ二人の間だけに灯る、

ひとひらの火のようだった。


リリナは、迷わず――


こくりと、頷いた。

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