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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第四章 焔国の導き、影に触れる勇気
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第287話 火が残る場所

焔の輪の中心にいた青年と目が合った、その瞬間。


リリナの胸の奥で、

きゅっと小さな火花が弾けた気がした。


鼓動とは違う。


けれど確かに、熱を帯びた感覚――

不意に灯された、小さな灯火のようだった。


けれど彼は、微笑をわずかに深めると――

まるで余韻だけを残すように、すっと視線を外した。


火の粉が彼の背を照らす。


身を翻すたび、火の粒が弾けるように宙へ散る。


そのまま舞の中へ溶け込むように、

跳ね、回り、夜の空気を裂くように舞い続ける。


そのたび、群衆の歓声が波のように高まり、

熱気が幾重にも渦を巻いた。


「……こんな動き、見たことある」


思わず、リリナの唇から息がこぼれる。


彼の動きには、決まった型があるようには見えなかった。


それなのに――

すべての所作が、太鼓の音とぴたりと合っている。


――いや、違う。


音のほうが、彼に合わせている気がした。


(“踊り”じゃない……)


これは――生きてる。


火の揺らめきに照らされたその姿は、

しなやかで、荒々しくて、息を呑むほど美しい。


気づけばリリナは、

広場のさらに近くへと足を運んでいた。


群衆の輪の外に、そっと近づきながら、

どうしても目を逸らせなかった。


「――次、こっち来るよ」


誰かの囁きが耳に届いた、その直後。


青年がふいに、大きく跳躍する。


焚き火の炎が一気に舞い上がり、

彼の影が、壁に長く伸びた。


そのままくるりと一回転し、

すっと足を踏み出して――


リリナの目の前で、ぴたりと動きを止めた。


近くで見ると、思ったより背が高い。


汗に濡れた額が、火の明かりを受けてきらめいている。


そして、やっぱり――

彼は、笑っていた。


「……踊らないの?」


少し笑うような声だった。


低く、それでいてやわらかな響き。


焚き火の熱を含んだ空気を揺らしながら、

耳元にそっと触れるように届く。


不思議と、胸の奥に染み込んで、

息を吸うことさえ忘れてしまいそうだった。


リリナは、一瞬、言葉を失った。


顔を見て。

声を聞いて。


それでも――何も返せなかった。


「……私は、見てるだけで……」


絞り出すようにそう言うと、

青年は小さく肩をすくめた。


「そっか。


でもさ――

祭りは、“混ざる”ほうが楽しいんだよ」


今度の声は、少し弾んでいた。


太陽みたいに軽やかで、

それでいて、不思議と心の奥までまっすぐ届く。


そう言い残し、

彼はくるりと身を翻す。


再び輪の中心へと舞い戻ると、

火の粉が舞い、太鼓が鳴り響いた。


熱は広場に渦を巻き、

その中心で、彼はまた命を燃やしている。


リリナの胸には、まだ微かな熱が残っていた。


それは――


誰かに、惹かれたという熱だった。


名前も、知らない。


けれど。


あの微笑みと声は、きっと忘れられない。


夜はまだ深く、終わる気配を見せない。


火の谷、ルア=ソレルの太陽祭。


その夜の中で――


リリナの旅路に、ひとつの炎が

灯っていた。

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