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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第四章 焔国の導き、影に触れる勇気
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第285話 交わる焔、知らぬまま

居住スペースは、決して広いとは言えなかった。

それでもミレナは迷いなく一室の扉を開け、振り返る。


「エル。ここ、使って」


「……ありがとうございます」


差し出された部屋は簡素で、窓も小さい。

けれど――胸の奥が、じんわりと温かくなった。


本当に、優しい人たちだ。


――たくさん歩いて、たくさん宣伝しよう。

それが今、私にできる唯一のお礼だ。


そう思った、そのときだった。


ドン……ドン……


低く、腹の底に響く鼓動が、外から伝わってきた。


「……?」


リリナは窓辺に近づく。

だが家々が密集しているせいで、見えるのは隣家の外壁だけだった。


それでも――

その音は、確かに街全体を揺らしていた。


「ここ、陽当たりも悪くて最悪だろう?」


背後からミレナが笑う。

リリナは思わず苦笑した。


荷物を片付けながら、ミレナが続ける。


「“太陽祭”の合図だよ。その太鼓」


「太陽祭……?」


「太陽神さまに感謝を捧げる日さ。

鼓に舞、炎の灯火。年に一度の大祭だよ。


国じゅうが浮き立つ。……一週間は大賑わいさ」


「一週間もですか?!」


思わず目を丸くするリリナに、ミレナは楽しそうに笑った。


「ここの国王は祭り好きで有名だからね。知らなかったかい?」


気まずそうに首を傾げるリリナ。

それを見て、ミレナは肩をすくめた。


「まあ、私たちもその太陽祭に合わせて帰ってきたんだけどさ」


「行くのか?」とアラン。


「今日は疲れたよ。明日にしよう」


そう言った二人を前に、

リリナだけが、少し身を乗り出した。


「……私、行ってきてもいいですか?」


ミレナが目を細める。


「若いねえ。まだ体力が残ってるのかい?」


照れたように笑い、リリナはこくりと頷いた。


するとミレナは財布を取り出し、何枚かの硬貨を差し出す。


「え……?」


「私は串に刺したスパイス肉」


「俺は焦がしバターのとうもろこしだな」


「帰りに買ってきておくれ」


「……分かりました!」


さらにミレナが付け加える。


「エルの分もあるからね。好きなものを食べるといいよ」


「ありがとうございます!」


嬉しそうに外へ出ようとした、その背に――

ミレナの声が飛んだ。


「目を合わせるんじゃないよ!」


リリナは、きょとんとして振り返る。


「……誰と、ですか?」


ミレナは、ほんの少しだけ真顔になった。


「この国じゃね、“目”は火なんだよ」


ゆっくりと言葉を選ぶように続ける。


ソレイダ王国――とくに舞都ルア=ソレルでは、

言葉よりも“視線”で通じ合う文化がある。


それを、人々は《交熱こうねつ》と呼ぶ。


目を合わせるということは、

ただ視線が重なるだけじゃない。


それは――

心の火を、交わすこと。


長く見つめ合えば見つめ合うほど、

その火は強く、誠実なものだと信じられている。


だからこそ、

興味のない相手とは目を合わせない。


軽い気持ちで、視線を返すものでもない。


「祭の夜はね、みんな火を持ってる。


うっかり目を合わせると……

“熱を渡した”ってことになる」


リリナは、少しだけ戸惑った。


意味はすべて理解できたわけではない。

けれど――

それがとても大切なことだけは、伝わってきた。


「……気をつけます!」


元気よく頷き、にこっと笑う。


「お祭りの雰囲気を見て、

お土産を買ってくるだけですから。心配いりません!」


そう言って、リリナは外へ飛び出した。


焚き火の明かりが通りを照らす。

太鼓の音が、胸の奥まで響く。


――火の中へ。


彼女はまだ知らない。


この焔の国では――

視線ひとつが、運命を呼び込むことを。

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