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第283話 名もなき焔
黎火祭は終わった。
祝福の火が舞台を照らし、
街は熱気と笑いに包まれている。
けれど――
ひとりの少年は、静かに舞台裏へと消えていった。
拍手も、歓声も、もう届かない場所へ。
焔は、確かに咲いた。
けれど――
それに、まだ名前はなかった。
⸻
「……踊ったよ、母さん」
レイヴは、ひとり空を見上げていた。
夜空に浮かぶ火灯りが、
涙のように揺れている。
(この火は……誰のために、咲いたんだろう)
ただの舞ではなかった。
ただの祭でもなかった。
――見ていた、あの瞳。
忘れられない、あのまなざし。
(名前も知らないのに……)
それでも。
胸の奥には、まだ消えぬ熱が残っていた。
⸻
夜風に吹かれながら、レイヴは静かに呟く。
(あの日、父様は言った。
燃やすものを、選べと)
「……いつか、もう一度……」
その声は、焔の残り香に溶けていく。
⸻
そして――
その“もう一度”は、
やがて太陽祭の夜へと繋がっていく。
――過去編・幕。




