第281話 勇気の炎
太陽が天の真上に昇る頃――
ソレイダの王都は赤金に染まっていた。
大通りには火壺が並び、香が焚かれ、風に乗って甘い煙が街を満たす。
年に一度の“黎火祭”――太陽の息吹を讃える日である。
その中心、王宮前の大広場。
壇上には燃え盛る大火が掲げられ、王の演説と舞が始まろうとしていた。
太鼓が鳴る。
低く重い音が大地を伝い、広場の空気をひとつに束ねていく。
壇上に立つヴァルセイン王の外套が風を孕んだ。
紅金の布は陽を弾き、炎そのもののように揺れる。
彼が一歩前に出るだけで、広場の喧騒がすっと鎮まった。
「民よ、我が子らよ。
火は、恐れるためのものではない。
火は生の証であり、魂の息吹である。」
その声は低く、確かだった。
熱ではなく、温度として胸の奥へ届く声。
その場にいた誰もが、息を詰めた。
王が腕を広げる。
火の粉が風に乗り、空へ舞い上がった。
それは祝福のように見えた。
民は拳を掲げ、立ち上がる。
国全体が、ひとつの炎になったようだった。
「霧が道を覆うとき、我らは急がぬ。
風の声を聴け。
光が差すその時こそ、ためらわず進め。」
「それが――勇気だ。
太陽の名にかけて、我らは歩みを止めぬ。
この谷の炎が絶えぬ限り、ソレイダは生き続ける。」
歓声が広場を包む。
紅布が風をはらみ、香の煙が金色の粒を抱いて舞い上がる。
レイヴは舞台袖でその光景を見つめていた。
王の言葉が、胸の奥に静かに沈んでいく。
(……燃やすものを、選べ。)
父の声が重なる。
掌を見下ろすと、印がかすかに熱を帯びていた。
その背に、そっと触れる手。
「あなたの火を、私は信じてる。」
振り向けば、ミラがいつものように微笑んでいた。
それだけで、胸の奥に灯がついた気がした。
太鼓が三度、鳴る。
レイヴは目を閉じ、息を吸い込む。
――光の中へ。
燃やすものを、選ぶために。




