第280話 光を見た炎
光門広場の喧騒を背に――
レイヴは、“火の頂”と呼ばれる、王族の上層区へと続く道の麓に立っていた。
その上には、王城〈炎冠宮〉と、王都側の祭礼を司る“聖炎神殿”がある。
だが、そこまで行く時間はない。
岩場に腰を下ろし、レイヴは大きく息を吸い込んだ。
熱と香草の混じる空気が、肺を焼くように通り抜ける。
「……静かだな。落ち着く」
ぽつりと漏れた声が、岩壁に吸い込まれていった。
視線を落とす。
左手の甲に刻まれた炎紋が、かすかに温もりを宿していた。
レイヴは腰に結んでいたスカーフを取り、指と口を使って器用に結び――その印を覆った。
「これでいい。……答えを見つけるまでは」
口の中に、火の味が残っている。
静寂の中で、心の熱だけがくすぶっていた。
顔を上げる。
――少しだけ、軽くなっている。
そのまま光門広場へ戻ろうと、腰を上げかけた――その時。
坂道の上から、淡い光がこぼれた。
振り向く。
その光の中心に――ひとりの少女が立っていた。
黎火祭に招かれた来賓だろうか。
ソレイダの民ではない、やわらかな気配を纏っている。
髪は陽光をそのまま溶かしたような金色。
ゆるやかな波を描く長い髪が、風を受けるたび柔らかく輝く。
透き通るような白い肌。
その微笑は、春の光のようにあたたかかった。
――見惚れていた。
時間が、ゆっくりと流れる。
その瞬間。
遠くで、ヴァルガンの遠吠えが響いた気がした。
はっとして振り返るが、姿はどこにもない。
再び視線を戻す。
少女がこちらを見ていた。
遠く離れているのに、確かに目が合う。
胸の奥が、強く打ち鳴らされた。
ヴァルガンの気配に呼応するように、
少女の視線も同じ方向へ流れていく。
(……なぜだ)
(ヴァルガンの気配は、俺にしか分からないはずだ)
なのに――なぜ、同じものを見ている。
君は誰だ。
その答えが、光の向こうにある気がした。
太陽の高さが、時間を告げていた。
胸の熱を押さえきれず――
レイヴは駆け出した。
――黎火祭へ。
太陽が、真上へ昇ろうとしていた。




