第274話 赤い衣と朝の光、旅立ちの決意
翌朝――
リリナは、赤い衣に身を包んでいた。
高い位置で結い上げたポニーテール。
結び目には、ソレイダ模様のスカーフがリボンのように揺れている。
鏡の中の自分は――まるで別人だった。
姫ではなく、どこか踊り子のようで。
その姿に、ほんの少しだけ戸惑う。
(足……太くないかな……?)
ちらりとミレナへ視線を向ける。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込む――
そんな堂々とした体つきが、少し羨ましかった。
「綺麗ですよ、姫様。とっても」
ミレナがやさしく微笑む。
隣でアランも、何度も頷いた。
「これは……交熱の洗礼、受けるぞ。
ソレイダの男は、目で火を飛ばすからな」
「こうねつ……?」
聞き慣れない言葉に、首をかしげる。
ミレナはくすりと笑った。
「ソレイダに行けば分かるよ。
あそこはね、目で火を交わす国だから」
⸻
「姫様って呼ぶのも、目立つね。名前で呼ぼう」
アランの提案に、リリナは一瞬だけ考え――静かに答えた。
「エル……と呼んでください」
「本名かい?」
ミレナが問いかける。
「ミドルネームです。
リリナ・エル・セレフィア――なので」
「王族って、名前がいくつもあるんだねぇ」
ミレナが感心すると、リリナは照れたように微笑んだ。
⸻
「よし、それじゃあ――行こうか、エル」
アランの声に、リリナは深く息を吸い込む。
「はい!」
外へ出ると、朝の光が街を淡く照らしていた。
リリナは、そっと空を見上げる。
(エリオン様……レンセリオン様……
ごめんなさい……
……このままじゃ……ここにいられなくて……
――でも、必ず戻ります)
胸の奥で、静かな炎が灯る。
「エルー! 早くおいで!」
ミレナが馬車から手を振る。
「今行きます!」
スカートを翻し、リリナは駆け出した。
勢いのまま馬車へと乗り込む。
やがて――
馬車は、ゆっくりと動き出した。
窓の外で、静水の都アク=ネリアが遠ざかっていく。
⸻
こうしてリリナは――
水の都を離れ、
火の国ソレイダへと向かう。
新しい旅が、朝の光の中で静かに始まった。




