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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第三章 水鏡の奥、影の真相
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第272話 静水の都で、ひとり泣く夜

アクエリシア王国――

南西に広がる静水の都、アク=ネリア。


水路沿いに並ぶ家々が月光を映し、

行き交う影鐘隊の影だけが、音もなく夜気を揺らしていた。



リリナは、建物の陰に身を寄せていた。


そして――

堪えきれず、涙がこぼれた。


胸の奥が苦しくて、うまく息ができない。


理由は分かっているのに――

心が追いつかない。



そのとき。


カラン……と、頭上で窓が開く音がした。


(……誰……?)


リリナは慌てて涙を拭い、

恐る恐る顔を上げる。


月明かりの中に現れたのは――

祈りの小径で出会った、あの旅人夫妻だった。


「ひ、姫様!? こんなところで何を……!」


妻が驚きに目を見開き、口元に手を当てる。


リリナもまた、驚きで言葉を失った。


「影鐘隊から逃げてたのかい? ひとりで……?」


妻は窓枠から身を乗り出し、

今にも手を伸ばしそうな勢いで覗き込んでくる。


その背後から、夫も顔を出した。


「お、おお……姫様!? 本物……!?

これはいけない、早く中へ!」


次の瞬間――


がしっ、と腕を掴まれる。


その力に引かれ、

リリナの体は、ふわりと室内へ引き入れられた。



「ありがとうございます……」


深く頭を下げるリリナ。


妻はすぐにその頬をのぞき込み、

涙の跡を、そっと指で拭った。


「まあ……こんなに泣いて。

ああ、何があったの、姫さま」


やわらかな声。


その温もりに――

胸の奥が、きゅっと締めつけられた。


さっきまでの冷たい夜が、

まるで嘘のようだった。


「まさか、またお会いできるとはねえ」


妻はリリナをそっとソファへ座らせ、

冷たい飲み物を手渡す。


「喉、乾いたでしょう?」


「……ありがとうございます」


その優しさが、心に沁みる。


ぽつり、とまた涙がこぼれた。


「まぁまぁ……」


妻は隣に腰を下ろし、

やさしく頭を撫でる。


「影鐘隊も、ここまでは入ってこないよ。

夜明けまで、ゆっくりしておいき」


その言葉に――


リリナはようやく、小さく息を吐いた。


そして、そっと飲み物を口に運ぶ。


ひんやりとした水が喉を通り――

張りつめていた心の糸が、少しずつほどけていく。



窓の外では、

水路に映る月が、静かに揺れていた。

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