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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第三章 水鏡の奥、影の真相
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第271話 三つの心、ぶつかる刃

神殿を出る頃には、

エリオンの覚醒も、静かに収束していた。


上衣を身につけた彼の二の腕からは、

広がっていた紋も、すでに消えている。



リリナは、ふと立ち止まった。


そしてエリオンに背を向け、

そっと上衣の襟元を引き寄せる。


――胸の印が、ふたつ。


その事実に、まだ心が追いついていない。


(……本当に……刻まれてる……)


見つめることに夢中になりすぎて――

頭上に落ちた影に、気づかなかった。


「み、見ないでっ!」


顔を上げた瞬間、

すぐ目の前にいたエリオンに、思わず声を上げる。


「確認の仕方が可愛かったので、つい」


くすり、と笑いながら、

エリオンはリリナの手を取り、引き寄せた。


「リリナ……」


温かな腕に包まれ、

髪を優しく撫でられる。


その瞬間――


キィン、と鋭い金属音が空気を裂いた。



エリオンの肩に、冷たい剣先が触れている。


(……えっ……?)


動きが止まる。

心臓が、強く跳ねた。


「……離れろ」


低く押し殺した声。


影鐘隊が動き始める時間。

この時間に街を歩ける者は、限られている。


ゆっくりと、エリオンの背越しに視線を向ける。


そこに立っていたのは――


レンセリオン。


顔は蒼白。


だが、その瞳だけが――

怒りで燃えるように揺れていた。


「レ、レンセリオン様っ……!」


声が震える。


リリナはエリオンから離れ、

慌てて叫んだ。


「剣を……下ろしてくださいっ!

エリオンが怪我してしまいます……!」


レンセリオンの眉が、わずかに吊り上がる。


その手は――震えていた。


エリオンはゆっくりと振り返る。


そして、剣の切っ先を

自らの左胸へ向ける形で、静かに立った。


レンセリオンの瞳が揺れる。


やがて――

剣は、静かに下ろされた。


だが次の瞬間。


乾いた音が、夜に響いた。


――バシッ。


エリオンの頬に、

レンセリオンの拳が叩き込まれる。


「きゃあっ!!」


リリナの悲鳴が、空気を震わせた。


エリオンはよろめき、

咄嗟に唇を押さえる。


滲んだ血が、指先を赤く染めていた。


「大丈夫……ですか……?」


震える手で、

リリナはエリオンの手をそっと外し、傷を確かめる。


ほんのわずかに、切れている。


そっと掌を添えると、

エリオンが驚いたように目を見開いた。


「痛いですか……?」


今にも泣きそうな声だった。


「レンセリオン様っ……

暴力は……やめてください……!」


リリナは、盾のようにエリオンの前へ立つ。


レンセリオンが、一歩近づく。


その表情には――もう怒りはなかった。


だがそれは――

怒りを越えた先の“無”。


その手が、リリナへと伸びる。


触れようとした、その瞬間――


エリオンの腕が動いた。


レンセリオンの手を、弾き飛ばす。


視線がぶつかる。

空気が――一瞬で凍りついた。


(……怖い……)


胸が締めつけられる。


涙が、止まらない。


見せたくないのに――

どうしても、溢れてしまう。


その涙に、ふたりは同時に気づいた。


「リリナ……」


重なる声。


だが次の瞬間――


レンセリオンの表情が、鋭く歪む。


再び、エリオンを睨みつける。


(……やめて……)


リリナは、一歩後ずさった。


「……ごめんなさい……」


震える声を残し――


ふたりに背を向けて、走り出す。



(私のせいだ……

二人の想いを受け取った私が――

こんなことにしてしまった)


「リリナ!!」


背後から、エリオンの声が響く。


振り返ると――

エリオンとレンセリオンが、同時に駆け出していた。


リリナは涙を拭う間もなく、走る。


南西に広がる、静水の都――アク=ネリア。


水路沿いの灯りが、ゆらゆらと揺れている。


その影の中へ――


リリナの姿は、あっという間に溶けていった。

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