第267話 許可と口づけ、眠りと目覚めのあいだ
濡れた衣類が乾くまで――
ふたりは、小さな別荘の中で静かな時間を過ごしていた。
エリオンが木のカップに水を注ぎ、そっと差し出す。
「ここには水しかありませんけど……どうぞ」
「ありがとうございます」
リリナは両手で受け取り、
エリオンの視線を感じながら、水を口に含んだ。
冷たい水が喉をすべり、
胸の奥まで、すっと澄んでいく。
「座りませんか?」
椅子を引かれ、リリナは素直に腰を下ろす。
エリオンも隣に座ろうと身をかがめた、そのとき――
外したままのボタンの隙間から、白い肌がふと覗いた。
(……っ)
一気に頬が熱くなる。
思わず視線を逸らした先で、
エリオンも気づいたのか、静かにボタンを留めた。
「……ごめんなさい」
そのやわらかな笑みに、余計に心臓が跳ねる。
「エ、エリオンは悪くないです……!
私が、勝手に……見てしまって……」
慌てて言葉をつなぐと、
エリオンは小さく肩を揺らして笑った。
「僕は気にしていませんよ」
わずかに距離を詰め、囁く。
「リリナも……案外、好奇心旺盛ですね」
「もうっ……!」
恥ずかしさに耐えきれず、
リリナはエリオンの肩を軽く叩いた。
その様子を、愛おしそうに見つめる視線。
「すぐからかって……嫌な人」
ぷい、と横を向いた、その瞬間――
ふわりと腕が回る。
包み込まれるような抱擁。
「……リリナ、可愛い」
耳元に落ちる低い声に、
否定したいのに、心臓が強く跳ねる。
「そ、そんな言葉で誤魔化されませんっ」
けれど――
もう、十分に誤魔化されていた。
エリオンの腕の温もりを感じながら、
リリナはそっと胸元に触れる。
そのわずかな動きを、
エリオンは見逃さなかった。
「……服が乾いたら、神殿に行きますか?」
「はい……」
小さく頷いた、その瞬間。
触れていた指先に、そっと力がこもる。
「私……また、深い眠りに落ちるかもしれません……」
レンセリオンとの共鳴で、
半日眠り続けてしまった記憶がよみがえる。
エリオンは、すぐに答えた。
「僕のキスで起こします」
「っ……!
わ、私の許可なくはダメです!」
「では――許可してください」
リリナはゆっくりと身体ごと向き直る。
エリオンがそっと近づき、
額と額が触れ合う。
息が混じるほどの距離。
「……眠っても、大丈夫です。必ず、起こします」
「……許していただけますか?」
甘く、落ちるような声。
逃げ場を失ったまま、
リリナは小さく頷いた。
「……起こしてください」
エリオンの瞳が、やわらかくほどける。
そして――
唇が、触れた。
触れた瞬間、腰に手が回る。
リリナも、自然とエリオンの首に腕を回した。
その動きに導かれるように、
口づけはゆっくりと深くなっていく。
静かな家の中で、
重なるのは、ふたりの呼吸だけ。
時間が――
水のように、ゆっくりほどけていった。




