第261話 触れた温度がくれる安心、刻まれる約束
エリオンの唇が離れたあとも、
その温度だけが、リリナの中に残っていた。
エリオンの指先が、衣服の上からそっと触れる。
優しく、確かめるように。
それ以上のことはひとつもしてこないのに、胸は苦しいほど熱かった。
ふたりは息を整えながら見つめ合う。
かつて、光の紋が刻まれたその場所へ――
その指が、静かに重なる。
「……明日、ここに僕の印を刻みましょう」
衣越しなのに、まるで心に触れられたようだった。
リリナは小さく頷く。
「僕の心ごと……刻ませてください」
その言葉は、囁くように静かに落ちた。
リリナの手が、そっと伸びる。
ためらいながらも、
エリオンの鎖骨に触れた。
ふいの動きに、
エリオンの瞳がわずかに揺れる。
リリナは、そっと衣の端を下げた。
露わになった印。
そこへ指を伸ばし、
やさしくなぞる。
そして――
その指先に、そっと唇を触れた。
まるで、その温度を移すように――
もう一度、印へと触れる。
一瞬――
時間が、ほどけたように止まる。
エリオンの表情が、やわらかく崩れた。
「……リリナ」
名前を呼ぶ声が、胸に沁みる。
その温度が、ゆっくりと近づいてきて――
再び口づけが落ちてくる。
触れ合う温度だけが、そこにある。
それだけで、満たされてしまう。
(……どうして、この人のそばだと、こんなに安心するんだろう)
エリオンの首に腕を回し、
この温度の奥へと触れるように、そっと引き寄せる。
もう、涙はこぼれなかった。
ふたりの想いが、言葉にならないまま重なる。
――触れているのは、温度だけじゃない。
そんな気がした。
夜は、静かに更けていく。
けれど――
このぬくもりだけは、消えなかった。




