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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第三章 水鏡の奥、影の真相
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第260話 触れた指先の奥で、名前になる想い

エリオンは、リリナを部屋の奥へと導いた。


灯りはやわらかく落ちていて、

外の気配も遠い。


その静けさが――

どこか、胸の奥を落ち着かせる。


「……ここなら、少し落ち着いて話せます」


そう言って、エリオンはベッドの端に腰を下ろした。


長身の彼に合わせて作られたのだろう。

大きな白布のベッドは、ふたり並んでも余るほどの広さがある。


「……すごく大きなベッド」


思わずこぼれた声に、

エリオンは小さく笑った。


「特注なんです。普通のものだと、足が出てしまって」


その何気ない言葉さえ――

どこかやわらかく響く。



リリナは一瞬だけ戸惑い、

けれど――その隣に、そっと腰を下ろした。


肩が、触れそうで触れない距離。


近いのに、まだ触れていないその空間が、

かえって意識を強くさせる。


ふたりの視線が、静かに重なった。


エリオンがふっと表情を和らげ、

ゆっくりと手を差し出す。


「……お話、しましょう」


その手に触れた瞬間――


そっと引き寄せられ、

やさしく抱き寄せられる。


風呂上がりの温度。

濡れた髪の香り。

重なる鼓動。


すべてが――近い。


けれど。


それを、拒むことはできなかった。



「……私、セラフィン様から聞きました」


少しだけ首をひねり、振り返る。


「エリオンは幼い頃……弱視のご病気をお持ちだったと」


エリオンは静かに頷き、

自分の右目を指した。


「ここです。今も視力は弱いですよ」


「え……見えてるんですか? 私の顔」


エリオンは左目を閉じ、右目だけでリリナを見る。


「ええ」


やわらかく微笑む。


「ちゃんと……綺麗に見えています」


胸が、息苦しいほど熱くなる。



「……知っていますか、リリナ」


囁くような声。


「花が咲くとき、水に触れたあとで光が降りるんです」


指先が、そっと髪に触れる。


「光は……ただ優しく包むだけ」


なぞるように、ゆっくりと。


息が、止まりそうになる。


「花は光を浴びて咲くけれど……」


わずかに、距離が近づく。


「生きているのは、水が支えているからですよ」


頬に触れる指先。


やさしいのに――

逃げ場を与えない温度だった。



「……私は」


声が、かすれる。


「……分かっているのに……

どうしたらいいのか、分からないんです」


エリオンは、やさしく笑う。


「それでいいんです」


静かに、言葉が落ちる。


「分からないままで――いい」


一瞬、視線が重なる。


「……一緒に、触れていきましょう」


その言葉は、どこまでも穏やかで――

それでいて、確かな意志を帯びていた。



次の瞬間――


唇が、重なった。


触れた瞬間、

世界の音が遠のく。


そのやさしさに、

すべてを預けてしまいそうになる。


思わず体が揺れ、

エリオンへと倒れ込むような形になる。


「っ……!」


自分の体勢に、息を呑む。


そのまま固まるリリナに、

エリオンはやさしく体を支えた。


気づけば――

視線の距離が、さらに近くなる。


逃げ場のない距離。


けれど――

そこにあるのは、優しさだけだった。


再び――唇が重なる。


今度は、迷いなく。


触れた温度が、静かに広がっていく。


リリナも――

そのぬくもりの奥へ、そっと身を委ねた。

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