表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第三章 水鏡の奥、影の真相
260/348

第258話 扉越しの声、濡れた髪のエリオン

その夜。


温い湯に身を沈めながら、

リリナはぼんやりと天井を見上げていた。


(……エリオン様)


静水夜の儀で歌う彼の姿は、誰よりも美しく、

胸の奥に触れるような祈りだった。


――けれど。


儀式が終わってからのエリオンは、

必要最低限の返事しかせず、

視線すら合わせようとしなかった。


(嬉しかったって……ちゃんと言いたかったのに)


ティアラ王女の歌を継いだその声も。

静水祭のすべてが美しかったことも――


胸いっぱい、伝えたかったのに。


――話したいことが、たくさんあるのに。



湯から上がり、髪を拭きながら歩き出す。


(このままじゃ……共鳴なんて、できない)


セレーネは、きっと待っている。


けれど、その前に――

エリオンが、遠い。


気づけば足は、彼の部屋の前で止まっていた。


(……いるかな)


扉を見つめる。

鼓動が、少しずつ速くなる。


「出なかったら戻る。それで終わり……」


自分に言い聞かせて――

リリナは控えめに、ほとんど“音にもならない”ノックをした。


……反応はない。


ほんの少し、胸の奥が緩む。


会いたいのに、怖い。


矛盾した感情が、静かにざわめく。


(……戻ろう)


そう思って、踵を返した――その瞬間。



背後の空気が、ふっと動いた。


誰かの気配。


振り向くより先に――

静かに沈んだ灰青の瞳が、目の前に現れる。


「……っ!」


悲鳴がこぼれかけた口を、

すばやくエリオンの手が塞いだ。


「声を……抑えてください」


低く、落ち着いた声。


すぐそばで、息遣いがかすかに触れる。


入浴のあとだったのだろう。

濡れた髪が頬にかかり、

いつもと違う前髪が、その瞳に影を落としていた。


その姿に――

胸が、どくんと跳ねる。


息を飲むと、

エリオンはそっと手を離した。



静かな廊下に、ふたりの呼吸だけが残る。


「……部屋に、入りますか?」


意外なほど、やわらかな声だった。


驚きと安堵が混ざる。


リリナは、小さく頷いた。


エリオンは扉に手をかけ、静かに開く。


そして――


「どうぞ」


わずかに、微笑んだ。


その瞬間。


心臓が、きゅうっと締めつけられるように鳴る。


リリナは、吸い寄せられるように――

扉の向こうへ足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ