第253話 迷路の庭で出会う影、揺れる眼差し
アクエリシア城へ戻ったリリナとレヴィアンは、
午後の空気がようやく静まりはじめた庭園を、ゆっくりと歩いていた。
城の外とは違い――ここは静かだった。
背の高い低木が連なり、
曲線を描くように幾重にも重なっている。
まるで、迷路のように。
「日除けでしょうか?」
リリナは低木にそっと指先で触れ、振り返る。
レヴィアンは、穏やかに頷いた。
「ええ。夏場は、かなり日差しが強くなりますから」
一拍。
そして、やわらかく続けた。
「リリナ姫……お疲れでは?」
リリナは、小さく首を横に振った。
「朝は少し、気持ちが沈んでいただけで……
身体は元気です」
レヴィアンは、安堵したように息をつく。
「それなら、よろしいのですが」
わずかに表情を引き締める。
「共鳴の旅を急がれるお気持ちは分かります。
ですが――どうか、ご無理はなさらないでください」
昨夜の騒動の疲れだと、彼は思っている。
――もちろん、それもある。
けれど。
胸の奥がざわつく理由は、それだけではない。
リリナは、微笑んでそれを覆い隠した。
⸻
「……レヴィアン様は、明後日にはご帰国されるのでしょう?」
「ええ」
レヴィアンは、空を仰ぐように視線を上げた。
「できればレンセリオン殿ともお会いしてから戻りたいのですが……
この様子では、お忙しいのでしょう」
ルクヴェル――
その名が胸をかすめる。
(第三騎士団が、大きな被害を受けたと聞いた……)
(レンセリオン様は……どんなお気持ちで……)
思考が、ゆっくりと沈んでいく。
そのときだった。
ふと――視線を感じた。
上から。
リリナは、ゆっくりと顔を上げる。
バルコニーの上。
そこに、ひとりの人物が立っていた。
――セラフィン。
柵に肘を預け、わずかに身を乗り出すようにして、
こちらを見下ろしている。
その表情には、やわらかな笑み。
リリナは、思わず手を振った。
セラフィンの目元が、静かに和らぐ。
ゆっくりと、手が返された。
レヴィアンもそれに気づき、軽く会釈する。
「……第一王子であられますか?」
「はい。エリオン様のお兄様です」
遠目にも分かる、気品。
光を纏うような存在感。
やさしく、穏やかで――
レヴィアンは、静かにリリナへ視線を戻した。
「……良い兄上のようですね」
リリナは、小さく微笑む。
「ええ……とても」
庭園を渡る風が、静かに吹き抜ける。
三人の距離を、やさしく繋ぐように。




