第252話 消えゆく灯り、湖面に揺れる未来の影
本来なら――夕刻まで続くはずだった静水祭。
だが昨夜の混乱を受け、短縮されていた日程はさらに削られ、
二日目の今日は“午前中のみ”で終わることになった。
「もう終わりなの……?」
そんな声が、あちこちから漏れている。
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祭の帰り道。
リリナとレヴィアンは、湖畔を歩く親子の声を耳にした。
「灯りを流す催し、ないの……?」
「セレーネ様、寂しがらない?」
母親はしゃがみ込み、子どもの髪を撫でながら、やさしく微笑む。
「大丈夫。あなたの声は、きっと届いてるわ。
セレーネ様は、寂しがったりしないと思うよ」
子どもは、ほっとしたように笑った。
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その光景を見つめながら――
リリナの胸にも、静かな灯りがともる。
湖面には、淡い光が揺れている。
けれど――
氷鱗の鯨の姿は、まだ見えない。
(……どこにいるんだろう)
(まだ、姿を見せてくれない――)
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「昨日より……人が減っているようですね」
レヴィアンが、静かに口を開いた。
リリナは、小さく頷く。
「……外へ出るのが怖くなった方も、多いと思います」
影鐘隊の影。
黒月の気配。
昨夜の恐怖は、人々の心に深く刻まれていた。
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ふと、リリナは尋ねた。
「テルメナの……バルクレイの印を持つ方。
レヴィアン様は、そのお方をご存じなのですか?」
これからの旅のために――
知っておきたかった。
レヴィアンは、穏やかに微笑む。
「ええ、もちろん存じています。
……その上で、エリオン殿から伺いました」
一拍置いて、
「リリナ姫が“共鳴の旅”を始められたと」
その眼差しには、確かな敬意が宿っていた。
リリナは少し照れながら、続ける。
「でも……これから出会う方たちが、
すぐに同じ方向を向いてくださるとは限りません」
(ヴァエルのように、英雄を目指さない人だっている)
(それでも――)
「……でも、諦めません」
その言葉に、レヴィアンの表情がやわらかく緩んだ。
「テルメナの者は、喜んでついて行きますよ。
あなたのような姫であれば」
リリナの胸に、静かな喜びが広がる。
「……その言葉、とても嬉しいです」
そして、少しだけ身を乗り出した。
「その方と、レヴィアン様は――どのようなご関係なのですか?」
レヴィアンは、わずかに目を伏せる。
どこか懐かしむように。
「信頼している友人のひとりです」
ゆっくりと、言葉を選ぶように続けた。
「長く共に汗を流し、競い、支え合ってきました。
……だからこそ、嬉しかったのです」
一拍。
「最近ようやく、気づけたことなのです」
「最近……ですか?」
リリナが目を丸くすると、レヴィアンは小さく頷いた。
「ええ。ずっと黙っていたようで……
私に遠慮していたのでしょう」
その声は、どこかやさしい。
「長く悩んでいたようですが……
ようやく、自分の名を胸を張って名乗る決心がついたようです」
ふっと、笑みがこぼれる。
「……面白い男ですよ、きっと」
(どんな人なんだろう……)
胸が、ほんの少しだけ高鳴る。
(カイル様のように明るい人?
それとも……まったく違う感じの人……?)
レヴィアンは、丁寧に言葉を添えた。
「テルメナへお越しの際は、ぜひ私のもとへもお立ち寄りください」
リリナは、ぱっと表情を明るくする。
「はい……!必ず伺います!」
ふたりは、静かに微笑み合った。
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湖面の光は、ゆっくりと薄れていく。
けれど――
未来へ向かう約束だけは、
胸の奥で、やわらかく灯り続けていた。




