第249話 毛布の下で触れた真実、夜の息遣い
ふたりは、同じ毛布に包まれていた。
けれど――
リリナは、とても眠れそうにない。
そっと横を向く。
エリオンのまつげが、静かに伏せられていた。
優しくて。
人懐っこくて。
素直で――
ときどき、子どものように可愛い人。
でもその奥に、静かな強さを秘めている。
(……こんな顔で、眠るんだ……)
胸が、きゅうっと鳴る。
そっと、頭を寄せた。
トクッ……トクッ……トクッ……
規則的な鼓動が、毛布越しに伝わってくる。
その音は、まるで子守唄のようで――
ざわついていた心が、少しずつ静まっていく。
けれど。
(……こんなに優しい人だもん……)
(女性関係だって……きっと……)
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
思い浮かぶのは――フェイラ。
知りたい。
でも、知りたくない。
そんな気持ちが、胸の中で揺れていた。
⸻
毛布の中で、指先がそっと動く。
エリオンの胸に触れた――その瞬間。
ぱちり、と瞳が開く。
驚いたように、リリナを見た。
けれどリリナは、いたずらっぽく微笑んだ。
その仕草に――
エリオンの腕が、静かに力を帯びる。
リリナの身体を、胸へと引き寄せた。
「ご、ごめんなさい……苦しいです……!」
「……ふふ。すみません」
すぐに力を緩め、やさしく抱き直す。
その温もりに、また心臓が大きく跳ねた。
「眠れないのですか?」
小さく頷く。
すると――
エリオンの手が、肩をゆっくりと撫でた。
あたたかくて。
安心して。
どこか、くすぐったい。
そのまま、ぽつりと声がこぼれる。
「……フェイラ様のことが、気になってます」
ぴたりと――動きが止まった。
次の瞬間。
耳元に、そっと顔が寄せられる。
「フェイラ……?
どうして気になるのです?」
顔を見られない。
リリナは、そのまま胸に額を預けて答えた。
「今日……セラフィン様に言われたんです。
“フェイラに何か言われたのか”って……」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「……そんなふうに思わせてしまったのは、
私のせいかもしれません……」
エリオンが、静かに息を呑んだ。
「兄は……他に、何と?」
「女性だと……」
「……ええ。その通りです」
短い沈黙が落ちる。
胸の鼓動が、少しだけ早くなる。
「他にも……ありますか?
私が知らないこと」
リリナは、ゆっくり顔を上げた。
視線が、重なる。
「……私に話したくないことが、あるんですよね?」
揺れる瞳。
「だから、祈りの小径で……
フェイラ様から隠れるようにしていたんですか……?」
エリオンは、静かに首を振った。
「……違います。それは誤解です」
一拍。
「フェイラを避けたのは事実ですが――
リリナ姫様に、話したくないことはありません」
リリナは、息をのむ。
エリオンは少しだけ視線を落とし、続けた。
「僕は……自分のことを話すのが、あまり得意ではなくて」
かすかに、苦笑が混じる。
「兄にもよく言われます。
“お前は何を考えているのか分からない”と」
その言葉に、リリナの胸が静かに揺れた。
「……もし、私が知りたいと言ったら」
そっと問いかける。
「エリオン様は……困りますか?」
少しの沈黙。
そして――
「……少しだけ、困ります」
正直な答えだった。
けれど。
「でも――話せないわけではありません。
ただ……話しにくいだけです」
その言葉が、やわらかく心に触れる。
ふたりは、そっと視線を絡ませた。
夜の静けさの中で。
触れ合う温度だけが――
ゆっくりと、距離を近づけていく。




