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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第三章 水鏡の奥、影の真相
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第247話 寄り添う灯、祈りの宿の夜

旅人夫妻の夫が、椅子に座る妻のもとへ駆け寄った。


「セレフィアの姫様、本当に……ありがとうございました。

そして、アクエリシアの王子様まで……」


深く頭を下げる。


リリナは慌てて首を振った。


「いいえ……。

あの方を背負って走ってくださった姿に、胸を打たれたのは……私のほうです」


老婆は水を口にし、ほっとしたように息をつく。


夫は耳まで赤くして、照れたように手を振った。


「あ、あれは……もう必死で。

姫様があれほど一生懸命に動かれていたので……背中を押されたんです」


「そんな……」


夫妻は長椅子に腰を下ろし、肩を寄せ合った。



祈りの宿の中には、避難してきた人々の姿があった。


三、四人掛けの長椅子が並び、

人々はそれぞれ、家族や連れごとに静かに腰を下ろしていた。


自然と――


リリナとエリオンも、同じ長椅子に座っていた。


ふたりの間には、わずかな距離。


……けれど。


先ほどまでの逃避行で感じた温度は、まだ残っている。



シスターが、そっと水の入った器を差し出した。


「喉を潤してくださいませ」


「ありがとうございます……」


水をひと口含む。


熱を帯びていた喉に、冷たさがすうっと染み渡っていく。


隣を見ると、エリオンも同じように水を飲んでいた。


首筋を、汗がひと筋伝う。


その様子に――


リリナの胸が、ふわりと温かくなる。


(……疲れているのに……必死で走ってくださったんだ……)


腰のリボンに挟んでいた薄布を取る。


マルナがよくしてくれた、あの仕草を思い出しながら――


そっと、エリオンの顎のラインへと当てた。


「……!」


エリオンが驚いて振り返る。


視線が、重なった。


「あっ、ごめんなさい……

汗が、垂れそうだったので……」


慌てて手を引こうとすると、


エリオンは小さく笑った。


「……ありがとうございます」


そして――


わずかに首を傾ける。


反対側の首筋を、そっと差し出すように。


まるで――

「こちらも」と言っているように。


「ふふっ……」


思わず、笑みがこぼれた。


リリナは、そっと布を当てる。


淡い灯りに照らされた横顔が、近い。


胸が、また高鳴った。


気づけば――


ふたりの距離も、ほんの少しだけ縮まっていた。



ふと、リリナは室内を見渡す。


奥――


回廊へと続く細い通路の手前に、

小さな子供たちが寄り添うように集まっていた。


幼いほど、その表情は強張っている。


「……子供たちが、たくさん……」


胸が締めつけられる。


その呟きに、エリオンも視線を向けた。


「ここは教会であると同時に、

“祈りの孤児院”でもあります」


静かな声。


「身寄りのない子供たちを、シスターたちが育てている場所なんです」


「……そうなんですね」


幼い子が、姉らしき少女の袖を握って震えている。


こんな小さな子まで――

“影の恐怖”に触れてしまうなんて。


胸が、痛む。



祈りの宿は、静かだった。


けれどその静けさは――

外に迫る“闇”と、不安の裏返し。


それでも。


ここにいる人々は、今だけは守られている。


その事実が――


リリナの心を、ほんの少しだけ温めていた。

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